アビームコンサルティングはこのほど、RPA(Robotic Process Automation)に関する説明会を開催した。RPAとは、パソコン上にソフトウェアのロボットを立ち上げて、決まった手順の事務処理を肩代わりさせる技術を指す。最近、企業での導入の機運が高まっているRPAだが、その背景には何があるのか。
戦略ビジネスユニット プリンシパルの安部慶喜氏は、日本では労働生産性が他国に比べて低いことに加え、今後の就業者減少を踏まえ、生産性向上が喫緊の課題であり、その解決策の1つがRPAと説明した。同氏はこれまで同社のRPA事業の責任者として、数百ロボットのRPA導入を指揮してきた実績を持つ。
生産性を向上する手段として、「就業者を増やす」「労働時間を増やす」といった従来のアプローチは社会的・政策的要請から限界にある。これにより、少ない時間で高い成果を生み出す手法として、RPAが注目を集めている。
その一方で、政府の後押しを受け、「働き方改革」を推進する日本企業が増えている。安部氏は「労働時間の短縮だけを目的とした見かけ上の働き方改革ではなく、創造的な業務に費やせる時間の確保を目指した、真の働き方改革を目指すべき」と指摘する。
多くの企業は現在、作業に忙殺されており、RPAを活用して人が作業に関わる時間を削減することで、その時間を創造的な業務に振り向けて、競争力につながる働き方にシフトしていこうというわけだ。
安部氏によると、主要業務はシステムによる効率化が済んでいるが、システム化ができていない少量多品種の"小粒業務"がホワイトカラーの生産性を阻害しているという。そこで、同社はRPAによって小粒業務の効率化を図ることを勧める。
RPAは低コストで導入できるため、量が少ない業務でも投資対効果が見込めるほか、既存のシステムを回収する必要がないため、業務プロセスの変更が不要であることから、"小粒業務"にRPAを導入してメリットが得られるそうだ。
97%の導入企業が作業の5割削減を達成
続いて、安部氏は日本RPA協会、RPAテクノロジーズ、同社におけるRPA関連の問い合わせ件数、導入実績件数を分析した調査結果を紹介した。調査数の内訳は、問い合わせ件数は3940件、導入実績件数は290件。
問い合わせはメーカーが61%で最も多く、導入はサービス業が33%で最も多という結果が出た。RPAの導入は金融が先行していたが、実際に導入した業種はメーカーのほうが多かったという。
サービス業においては、人材サービスの導入実績が圧倒的に多いが、これは「フロントの人材の効率を上げると、利益アップにつながるから」と、安部氏は説明する。
また、金融はもともとホワイトカラーの生産性向上が課題となっていたところに、RPAが登場したことで導入実績が高いが、銀行に関しては地銀がまだ動いていないため、保険ほど導入が進んでいないそうだ。
従業員規模については、導入企業は1000人以上が60%を占めるが、問い合わせは1000人未満の企業で47%と、規模に関係なくRPAの導入が広がっていることが明らかになった。
売上規模についても、導入にまで至っているのは500億以上の企業が69%と圧倒的に多いが、500億未満の企業も問い合わせは53%、導入は31%に達している。
業務別の導入実績については、フロントオフィスとバックオフィスがほぼ同等という結果が出ており、幅広い業務に適用できることがわかった。
RPA導入による人間の作業の削減効果については、97%の企業が5割以上の削減を達成したという結果が出た。また、導入期間については、約半数が4週間以内で導入(業務ヒヤリングから導入完了まで)を済ませている。ちなみに、ロボットの作成自体は数日しかかからないそうだ。
「デジタルレイバープラットフォーム」としての飛躍が期待されるRPA
そして、安部氏はRPAの将来像について、「人工知能の登場や技術の進展により、単なる定型作業以上を担うことができるDigital Labor(仮想知的労働者)への進化が期待されている」と語った。
さらに、さまざまな業務アプリケーションの中から、最適なものを柔軟に組み合わせることで、企業価値を最大化するプラットフォームになりうるという。
なお、同社はRPA関連のサービスとして「簡易診断サービス」「業務改革サービス」「開発者育成サービス」「保守運用サービス」「ERPオートメーションロボットサービス」を提供している。これらのうち、「開発者育成サービス」が特徴的だという。
というのも、RPAの効果を出すには、社内に運用できる人材が必要だからだという。先にも述べたが、ロボットの作成自体にはそれほど時間がかからないので、仕組みを理解できれば、ベンダーを頼らずに、社内でロボットを作成して、RPAにまかせる業務をふやすことも可能になる。
説明会では、企業がRPAの導入に役立つ情報を提供する場として、「RPA BANK」が紹介された。「RPA BANK」は、オンラインで情報やツールを提供するほか、オフサイトでイベントも開催している。RPAの効果を得る上で、一助となるのではないだろうか。