アクセンチュアは7月20日に記者説明会を開催し、フィンテックの最新動向についての発表を行った。同社のフィンテックに関する説明会は昨年に引き続いて2回目。2015年のデータを使って行われた昨年の説明会では、フィンテック投資の規模拡大と事業の多角化が紹介された。

2016年のデータを分析した今回の説明会について、アクセンチュア 執行役員 金融サービス本部 統括本部長の中野将志氏は「我々はフィンテックに関するデータを2010年前後から収集し始めたが、当時は地域別のフィンテック投資額の調査をする程度であり、本格的な調査は2014年から。そのためようやく具体的なデータが集まり始めた」と述べた。

アクセンチュア 執行役員 金融サービス本部 統括本部長の中野将志氏

バリエーションは落ち着きを見せつつも、順調に成長するフィンテック投資

まずはフィンテック投資の概況について、アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 エンタープライズ アーキテクチャ&アプリケーション戦略 マネジング・ディレクターの村上隆文氏から説明が行われた。

アクセンチュア 戦略コンサルティング本部 エンタープライズ アーキテクチャ&アプリケーション戦略 マネジング・ディレクターの村上隆文氏

グローバルにおけるフィンテック投資の件数と金額の規模を見ると、件数は順調な伸びを見せているが、金額的な成長は前年と比較すると勢いが鈍化。この結果に対して村上氏は「フィンテックに対する期待は続いているが、過剰な期待感は落ち着きを見せ始めている」と考えを述べた。一方でフィンテックスタートアップのステージ別の件数では、段階を問わずバランスよく伸びていることから「スタートアップが次々に生まれ、安定的にスケールしていっていることがわかる」と分析する。

また、2015年頃までは北米を中心にフィンテック投資が行われていたが、2016年ではアジアパシフィックにおける投資が全体の半数を占めるほどまで成長。特に中国の動向が大きなインパクトを与えるようになったという。

グローバルフィンテック投資の推移

決済周辺から始まったフィンテック投資の事業領域については、近年さまざまな領域へ投資されるようになったが、そのバリエーションは落ち着きを見せ、各領域において安定した成長を見せるようになった。

また、投資先の技術領域を見ると、APIやIoTの投資額が依然として大きいものの、AIやブロックチェーンといった新興技術への投資件数が前年度比70%増といった急成長を見せており、関心が高まっていることがわかる。中でも特にAPI、AI・ロボティクス、ブロックチェーンの3つのテクノロジーが金融ビジネスにとって破壊的インパクトをもたらし得るという。

技術別のフィンテック投資

これらフィンテック投資の動向から村上氏は「スタートアップが既存ビジネスをディスラプトしながら大きな収益を上げるようなモデルから、伝統的企業とスタートアップが組むことで着実なビジネスを創ることが顕著になってきた結果だろう。過剰なバリエーションが落ち着きを見せてはいるが、件数的な伸びはまだまだ続くと考えている」と述べた。

金融イノベーションの加速はオープンイノベーションがカギとなる

伝統的な金融機関においても、フィンテックスタートアップの存在は無視できない。次の成長を支える手段としてスタートアップとどう付き合っていくかが重要になってきている。

村上氏は「現在、金融機関は既に展開している事業の決済や与信などの機能を提供する社会インフラ企業を目指すか、フィンテック技術を活用することで顧客の生活に根ざしたサービスを展開する企業を目指すのかといった分岐点に立たされている。最先端技術などを活用して金融業の枠を越えていく後者の場合は、金融機関単体ではなく複数社が一体となってサービスを提供していくことが重要だ」と分析する。

そのようなオープンイノベーションを推し進めるためには、フィンテックスタートアップなどのシーズを確保する「インプット」、不確実性を許容する「マネジメント」、新たな顧客体験を生み出す「アウトプット」、外部からの「リソース」という4つの枠組みを作ることで新しい価値を生み出す仕組みを構築することが大事だという。

オープンイノベーションを通じた共創の条件

日本のフィンテック市場も順調に伸びており、前年度比で投資額は135%で成長している。「これから伝統的な金融機関が自社の成長にいかにこれらを取り込んでいけるかが課題になる」と村上氏。「日本でもスタートアップ単体でイノベーションを起こすのでなく、金融機関や異業種とフィンテックスタートアップがオープンイノベーションを図りながら新しい価値を提供していくことが求められる。そのためにも海外のスタートアップに対して積極的にリーチしていくことが大事だ」と考えを述べた。

また、米国のフィンテック投資額がGDP比で0.05%であるのに対し、日本は未だに0.004%であることから、まだまだ成長の余地があると考えており、「日本は中長期的な観点で見ると、ハブ型のフィンテック市場としてグローバルで存在感を示すポテンシャルがある」と日本のフィンテック市場の未来に期待を寄せた。

日本の金融機関が取り組むべきこと