東京工業大学(東工大)は7月21日、液体の電解質に匹敵するイオン伝導率11mS/cmを持つ新たな固体電解質材料を発見したと発表した。
同成果は、東工大物質理工学院応用化学系 菅野了次教授らの研究グループによるもので、7月10日付けの米国科学誌「Chemistry of Materials」に掲載された。
リチウムイオン電池の電解質には現在、液体が使われており、容量、コスト、安全性などが課題となっている。このため、固体電解質の開発および全固体型リチウムイオン電池の実現が求められている。しかし、固体の電解質は液体の電解質に比べてイオン伝導率が低く、その結果、固体電池は液系電池と比べて出力が低いことが課題とされていた。
同研究グループは、2011年にイオン伝導率が高い固体電解質であるLGPS(=リチウム・ゲルマニウム・リン・硫黄)物質系を発見し、2016年にはその派生の固体電解質材料を発見している。しかし、これらは高価な元素であるゲルマニウム(Ge)を用いたり、塩素(Cl)などを用いた特異な組成に限られており、電気化学的な不安定性も課題であった。
今回の研究では、スズ(Sn)およびケイ素(Si)を組成し、それぞれ単独では達成できなかった11mS/cmを持つイオン伝導率を示す超イオン伝導体Li-Sn-Si-P-S(LSSPS) :Li10.35[Sn0.27Si1.08]P1.65S12 (Li3.45[Sn0.09Si0.36]P0.55S4)を発見した。
Li3PS4-Li4SnS4-Li4SiS4擬似三成分相図中で新規材料探索を行い、Li10GeP2S12(LGPS)型の生成領域が明らかになった。Sn系、Si系と比べて広い組成範囲でLGPS型相が形成し、組成最適化により、11 mS/cmのイオン伝導率を示す新材料が見出された (出所:東工大Webサイト) |
同超イオン伝導体は、合成しやすく、熱安定性が高い点が特徴。また、大気下での安定性が高いこと、柔らかく、加工しやすいこと、電気化学的な安定性が高いことなどの長所を備えている。 さらに、合成過程で組成がずれても安定してLGPS型固体電解質ができるので、品質のばらつきが生じにくく、組成のチューニングも可能で、今後、全固体電池の用途拡大とともに明らかになるさまざまな固体電解質の要求性能に対応しやすい。
元素の組み合わせや、組成比の最適化にはマテリアルズインフォマティクスによるアプローチも適していることから、今後、まったく新しい材料発見にいたる可能性もあるという。