北海道大学は、1930年頃に発生したとされる、コンブ等の大型海藻類が消失し、それを餌とするウニやエゾアワビ等の生産が減る「磯焼け」発生以前の海の栄養状態が明らかになり、ニシンがコンブの栄養源として寄与していたことが解明されたと発表した。
同研究は、北海道原子力環境センターの栗林貴範(北海道大学大学院環境科学院にて社会人学生として学位取得)、北海道大学総合博物館の阿部剛史、北海道大学大学院水産科学研究院の門谷茂らの研究グループによるもので、同研究成果は、米国太平洋時間7月12日、「PLOS ONE」オンライン版に掲載された。
「磯焼け」は、コンブ等の大型海藻類が消失し、それを餌とするウニやエゾアワビ等の生産が減る現象。北海道日本海では、南西部を中心に磯焼けが著しく、その一因として栄養塩との関連性が指摘されている。一方、19世紀末~20世紀初頭(明治~大正期)には大きくて黒々としたぶ厚いコンブが大量に存在していたと、漁業者により昔から伝えられてきた。しかし、過去の海の栄養状態を説明できる科学データは、これまで存在しなかった。
北海道日本海沿岸で撮影されたニシンに関連する写真 a.前浜に揚げられた大量のニシンの山(1919年:余市、林満氏提供) b.海藻に生み付けられたニシンの卵(2004年:羽幌、赤池章一氏提供) c.ニシンの放精により海面が白く濁る「群来(くき)」(2011年:小樽) d.身欠きニシンの加工(1911年あるいは1914年:寿都、山本竜也氏提供)(出所:北海道大学プレスリリース) |
そこで同研究チームは、コンブは栄養塩を利用して生育するため、昔のコンブ成分を調べれば当時の海の栄養状態がわかるのではないかと考え、北海道大学総合博物館が所蔵する1881年~2014年に北海道周辺海域に分布したコンブ標本を用い、栄養状態に関する情報を含む窒素安定同位体比(14Nと15Nの比率)を調査した。 その結果、1881年~1920年(明治~大正期)にかけて日本海側で生育したコンブのみ、他の年代や海域と比べて窒素安定同位体比が特異的に高い値を示した。このことは、一般に知られる窒素安定同位体比の上昇要因では説明できず、長年言い伝えられてきた仮説「ニシンによる栄養塩供給」との関連性が考えられたという。
そこで、北海道日本海におけるコンブの窒素安定同位体比をニシンの漁獲量変動と比較した結果、窒素安定同位体比が高いほど、漁獲量も多くなっていた。明治~大正期にかけての北海道では、現在の500~1000倍に及ぶ大量のニシンが漁獲され、その90%以上は日本海側のもので、今回示された高い窒素安定同位体比は、大量のニシン産卵群による卵や精液、加工により生じた煮汁等が分解して「栄養塩」となりコンブに利用されたためと考えることが、最も矛盾のない説明だという。また、当時ニシンは、コンブの最成長期である春に来遊していたため、コンブの成長促進と現存量増大に特に寄与していたことが考えられるということだ。
磯焼けは国内外において解決すべき最重要課題のひとつであり、同研究で磯焼け発生以前の海の栄養状態が明らかになったことは、漁業関係者を長年悩ませてきた磯焼けの要因解明やその対策を検討するうえで重要な知見となるということだ。