猿人などの人類の祖先が木から下りて地上で生活を始めたのは、暑い乾期に木の下の涼を求めて地上に移動したためである可能性があるー。このような興味深い仮説を京都大学霊長類研究所の竹元博幸(たけもと ひろゆき)研究員が提示した。気候の異なるアフリカの2地域でチンパンジーなどの類人猿を長期間観察した結果から導き出したという。研究成果はこのほど英科学誌サイエンティフィック・リポーツ電子版に掲載された。
竹元さんは2005~08年の間、乾期のほとんどないアフリカ中部のコンゴ民主共和国・ワンバと乾期がある西部のギニア共和国・ボッソウの2地域で、森林に暮らすチンパンジーとボノボ合わせて10頭の地上滞在時間を観察した。併せて気温を計測、2地域とも平均気温は地上の方が樹上よりも涼しいことを確認し、地上に下りていた時間と気温の相関関係を調べた。
その結果、2地域のチンパンジーとボノボとも気温が高い日は一日のほとんどの時間を地上で過ごし、気温が低い日はほとんど樹上で過ごしている傾向がはっきりと示された。特に平均気温が低い雨期と高い乾期の温度差がはっきりしているギニア共和国・ボッソウのチンパンジーの場合、地上で過ごす時間が雨期は1日の約14%に対して乾期は約50%と地上滞在時間が4倍近く増加していた。竹元さんは「暑い乾期には涼しい地上で過ごして体温調節のエネルギーを節約していると考えられる」としている。
人類の進化に関しては、900万~800万年前に始まった乾燥化によって森林が減少、その結果、人類は森林からサバンナへ進出して二足歩行を始めたとする「サバンナ仮説」があった。しかし、近年初期の人類の化石が熱帯林などで見つかり直立二足歩行していた形跡が見られてサバンナ仮説への疑問が提起されていた。
今回の観察結果から竹元さんは、人類の祖先はサバンナに出る前にも暑い日は体温調節のために地上での生活を開始していた可能性がある、との仮説を打ち出した。研究成果については「人類がどのように直立二足歩行をするようになったかなど初期人類の進化を考える上で大きな意味を持つ」としている。
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