東京工業大学(東工大)は7月21日、反芳香族分子の高い電子伝導性を単分子レベルで計測することに成功したと発表した。
同成果は、東京工業大学理学院化学系 藤井慎太郎特任准教授、木口学教授、名古屋大学大学院工学研究科 忍久保洋教授らの研究グループによるもので、7月19日付けの英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。
4n+2個のπ電子をもつ環状分子で、香料、染料、電子材料などに利用されている芳香族分子にに対し、π電子が4n個の反芳香族分子は、天然には存在しない不安定な分子である。一方、不安定であるということは、逆に高い反応性、優れた電子伝導性、特異な磁気的性質を示すことが期待でき、電池材料などへの応用も期待されている。しかしながら、反芳香族分子は、その高い反応性から単離が難しく、分子レベルで反芳香族分子の高い伝導性を実証した研究は行われていなかった。
今回、同研究グループは、16個のπ電子を含む反芳香族分子ノルコロールに着目。走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて、STM探針と金基板のあいだに1分子のノルコロールをはさみこむことで、単分子計測を行った。
この結果、類似の構造をもつ18個のπ電子を含む芳香族分子ポルフィリンと比較して、ノルコロールは20倍近く伝導性が高いことが明らかになった。また電気化学的手法により、ノルコロールの伝導性をさらに1桁近く向上させることにも成功している。
同研究グループは今回の成果について、反芳香族分子の高い電子伝導性を単分子レベルで実証することに成功したものと説明しており、今後、反芳香族分子の優れた電子特性を電池や電子素子などへ応用することが期待されている。