アメリカ航空宇宙局(NASA)は、ヴァン・アレン帯探査機(Van Allen Probes)で観測したプラズマ波が出す「宇宙の音」を、インターネット上で公開した。NASAのWebページで、MP3などの音源としてダウンロードすることができる。
プラズマは、固体・液体・気体とは異なる物質の第4の状態とも呼ばれ、気体分子がイオンと電子に分離した状態になり、電磁場と相互作用する。プラズマ波とは、電磁場との相互作用による荷電粒子の集団的な動きであり、プラズマ密度の疎密によって生じた振動がプラズマ中を伝わっていく現象であると説明される。
地球の磁気圏の内側には、エネルギーが数eV(電子ボルト)と低いプラズマ(低温プラズマ)で構成された「プラズマ圏」が存在している。プラズマ圏は、電離層の上からだいたい地球半径の4倍程度の範囲に広がっているとされる。そこではさまざまな波形をもったプラズマ波の活発な動きを観測することができる。
プラズマ波の観測で得られた電磁波の波形は、オーディオアンプなどを通すことで人間の耳で聴くことのできる音に変換することができる。空気のない宇宙空間で直接このような音が聴こえるわけではもちろんないが、これらの音を聴くことで、宇宙が決して静かな場所ではなく、さまざまなプラズマの波が飛び交うダイナミックで騒がしい空間であることが直感的にイメージできる。
今回公開されたデータでは、「ホイスラー波」「コーラス波」「プラズマ圏ヒス波」という3種類のプラズマ波の音を聴くことができる。
ホイスラー波
20世紀前半には、雷放電に関係した電波が電話線などに混信することによって口笛のような音が聞こえる現象があることがわかり、「ホイスラー」と呼ばれるようになった。当初、ホイスラーの発生メカニズムはよくわからなかったが、1953年に英国の物理学者ストーレー(L. R. O. Storey)がこれを説明する理論を発表した。
その理論によると、雷放電によって発生した超長波の電波(VLF: very low frequency)の一部は、電離層を飛び出し、地球の磁力線に沿って北半球から南半球へ、南半球から北半球へと伝搬する。雷放電ではいろいろな周波数の電波が同時に生じるが、周波数の高い電波のほうが伝搬速度がより速くなるため、音に変換されたときには高音から低音へとピッチが下がっていく口笛のように聴こえるとした。
その後、ホイスラー波の伝搬経路に関する詳しい解析が進んだことによって、地球の周りに存在しているプラズマ圏や磁気圏などの構造解明につながっていった。
ホイスラー波の音源はこちら。
コーラス波
プラズマ圏よりも外側では、プラズマ密度は希薄になり、プラズマ温度は相対的に高くなる。ここでのホイスラーモード波(磁力線に沿って伝搬する電磁波)は、鳥が甲高くさえずるような音に変換されることがある。このタイプの波はコーラス波と呼ばれている。
地球の磁気圏は太陽と反対側(地球の夜の側)に長く尾を引くように広がっている。この尾の部分で起こる磁気再結合によって、コーラス波が生じると考えられている。磁気再結合によって低エネルギーの電子が加速され、プラズマに衝突し、プラズマ中の粒子と相互作用することで鳥のさえずりのような特徴的な波形になるという。
コーラス波の音源はこちら。こちらもコーラス波(過去に公開されたもの)。
プラズマ圏ヒス波
プラズマ圏の内側でのホイスラーモード波は、プラズマ圏ヒス波と呼ばれ、放送電波の空電ノイズによく似た音になる。ヒス波は落雷によっても生じると考えられているが、プラズマ圏の内側に入りこんできたコーラス波によって生じるとする説もある。コーラス波とヒス波は、ヴァン・アレン帯(地球をドーナツ型に取り巻く高エネルギー粒子帯)など地球の周囲環境を形成している重要な要素である。
プラズマ圏ヒス波の音源はこちら。
NASAでは、ヴァン・アレン帯探査機を用いたプラズマ波の動態研究に取り組んでおり、これを人工衛星や通信信号に大きな影響を与える宇宙天気の予測精度向上に役立てようとしている。今回公開されたような音のデータも観測の一環として記録されている。現在、2機のヴァン・アレン帯探査機が運用されており、探査機に搭載されたEMFISIS(Electric and Magnetic Field Instrument Suite and Integrated Science)と呼ばれる観測装置を使って地球の周りの宇宙空間における電磁波の測定が行われている。