北海道大学は、北海道大学大学院薬学研究院生体分子機能学研究室の前仲勝実教授らの研究グループが、アトピー性皮膚炎マウスを用いて、ヒト主要組織適合性複合体のひとつである「HLA-G1」タンパク質の過剰な免疫反応による慢性炎症疾患の治療効果を発見したことを発表した。この成果は7月1日、免疫学のオープンジャーナル「International Immunopharmacology」にオンライン公開された。
HLA-Gタンパク質は、ヒトの胎盤で母体免疫から胎児を守ったり、全身の免疫反応を抑制したりする天然の免疫抑制分子である。そのうち「HLA-G1」は生体内で最も存在量が多い HLA-Gタンパク質で、研究グループはこれまでに同物質を皮下投与することで、関節リウマチモデルであるコラーゲン誘導性関節炎マウスの関節炎症を緩和できることを明らかにしてきた。
今回の研究では、HLA-G1の抗炎症バイオ医薬品としての効用をさらに検討するため、ダニ虫体成分を含む軟膏を塗って人工的にアトピー性皮膚炎の症状を誘発したマウスの耳に、1日おきに連続10日間、精製したHLA-G1タンパク質(5gまたは15 g/両耳)を塗布して炎症抑制作用の有無を観察したところ、HLA-G1塗布群では症状の改善が認められたという。
また、その抑制効果は5g投与したときよりも15g投与したときに強く、より改善が見られた。組織学的にも、HLA-G1塗布により炎症部位へ免疫細胞が集結し、さらなる炎症を抑えられていることが確認できた。なお、副作用は認められなかったということだ。
この結果、HLA-G1タンパク質溶液を炎症患部に塗布することによって、皮膚から血中に吸収され、Th2/Th17が関与するアレルギー反応を抑制し、皮膚炎症に治療効果を発揮することが明らかになった。
既に報告済みのコラーゲン誘導性関節炎モデルマウスに続き、アレルギーモデルマウスでも免疫反応を抑制する効果を示したことから、今後はアレルギー性炎症疾患を対象とした副作用の少ないバイオ医薬品の開発に、HLA-G1が応用されることが期待できるということだ。