プラネタリウム向け映像作品の制作を手がけるライブの最新作『HORIZON ~宇宙の果てにあるもの』(監督: 上坂浩光)がこのほど完成し、7月10日、多摩六都科学館(東京都)において完成披露試写会が開催された。
『HORIZON』は、小惑星探査機「はやぶさ」の挑戦を描いた『HAYABUSA -BACK TO THE EARTH-』や、「はやぶさ2」が挑む旅路を描いた『HAYABUSA2 -RETURN TO THE UNIVERSE-』などを手がけた、上坂監督の最新作。2年の歳月をかけ、こだわり抜いて作られた本作のテーマは、「宇宙論」。
系外銀河を発見したエドウィン・ハッブルや、宇宙膨張を説いたジョルジュ・ルメートル、そして宇宙膨張の証拠である宇宙背景放射を発見したペンジアスとウィルソンといった多くの科学者たちによる、宇宙の真の姿とその誕生の謎を解き明かす挑戦を、緻密で美しい映像で描いている。
今後、鹿児島市立科学館(来春~)ほか、日本や世界各地のプラネタリウムで上映が予定されている。
制作のきっかけは「宇宙の始まりを見てきた」宇宙物理学者との出会い
「この作品を作ろうと思ったきっかけは、宇宙物理学者の小松英一郎さんとの出会いでした」。
舞台挨拶で上坂監督は、開口一番、このように語った。
「小松さんは、まるで宇宙の果てを見てきたかのように、熱く語るんです。だから『見てきたみたいですね』と聞いたら、『いや、本当に見てきたんですよ』と言うんですね。僕はその話を聞いて、すっかり彼に魅了されました」。
小松さんは、米国航空宇宙局(NASA)の探査機「WMAP」のプロジェクトに参画し、その主要メンバーとして活躍した人物。WMAPは、宇宙の始まりで起きたビッグ・バンの証拠と考えられている「宇宙マイクロ波背景放射」を精密に観測した探査機で、小松さんはその観測結果から、宇宙論パラメーターがどの範囲に収まるのかという、現代宇宙論にとって最重要課題のひとつについて論文を発表した。この論文は、数多くの研究者に引用されている。
上坂監督は「そこから僕は、宇宙論というものがどうやってできたのかを調べていきました。すると、とても多くの方が、人生をかけてかかわっていて、その成果として今、僕らは宇宙論として知ることができるんだ、ということがわかりました。そしてそれを、ぜひ多くの人に実感してもらいたい、という想いで、この作品を作りました」と続けた。
『HORIZON』は、夜空に輝く星空を見上げる、私たちの遠い祖先の姿から始まる。やがて科学の進歩とともに、地球や宇宙のことを徐々に学び、そして地動説と地動説をめぐる論争が訪れる。その論争をの乗り越え、私たちの住む地球は宇宙の中心ではなく、そればかりか太陽系さえも中心ではなく、天の川銀河という数多の星々の集まりの中の、ごくひとつに過ぎないことを知っていく。
そして天文学者エドウィン・ハッブルにより、天の川銀河すらも宇宙の中心ではなく、宇宙に無数にある銀河系のたったひとつであることがわかる。さらに彼の観測は、その無数の銀河が、私たちの太陽系から見るとすべて遠ざかっているように見えるという、重大な事実の発見に至る。そしてその発見をもとに、天文学者ジョルジュ・ルメートルは、宇宙が膨張しているのではという仮説を立てる。
しかし、彼の学説はまったく受け入れられなかった。当時の科学者は、宇宙は昔から大きさを変えないという定常宇宙論を支持していたのである。だが、その38年後、宇宙膨張の証拠である「宇宙背景放射」が、アーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンによって発見される。やがて探査機を使った観測が行われるようになり、「COBE」とWMAPが、宇宙背景放射の精密な観測に臨む。
そして物語は、宇宙背景放射の壁の向こうに隠されていた、宇宙誕生の秘密に迫っていく。
初の系外銀河を発見した天文学者エドウィン・ハッブル (C)有限会社ライブ (C)株式会社 五藤光学研究所 |
宇宙膨張論を打ち立てた天文学者ジョルジュ・ルメートル (C)有限会社ライブ (C)株式会社 五藤光学研究所 |
宇宙膨張の証拠である「宇宙背景放射」を発見したアーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソン (C)有限会社ライブ (C)株式会社 五藤光学研究所 |
宇宙の最新理論を迫力あるCGで表現した映像は必見
本作の最大の見所は、やはり上坂監督がこだわり抜いて描いた、その映像だろう。プラネタリウムのドームいっぱいに広がる緻密で美しい映像には、思わず引き込まれてしまう。
また、ただ美しいだけでなく、小松さんの監修のもと、最新の宇宙理論を正確かつ迫力ある映像で表現した点にも注目である。
たとえば「宇宙が膨張している」、「宇宙背景放射」といった言葉を聞いても、それがどういうものなのかを想像するのはなかなか難しい。しかし本作では、迫力ある美しいCGでそれが見事に描かれ、宇宙が膨張するとはどういうことなのか、宇宙背景放射というものがなぜ存在し、どのようにして観測できるのか、そしてそれを調べることで、なぜ「宇宙の果てを見てきた」と言うことができるのかが、よくわかるようになっている。
またナレーションも、この難しいテーマをやさしく、わかりやすく、そして表現豊かに解説し、映像と相まって理解を大きく深めることができる。とくに最後に語られる、ある言葉はとくに印象深く、筆者の心に深く刻まれた。
上坂監督は、こうした作品にした意図について「僕は、科学というものは、十分にエンターテイメントになるうると思っています。科学は、僕らとは別の人種の誰かが作っているのではなく、血の通った人間がやってきたのだということを常々思っており、そうした意図を込めました」と語る。
2年の歳月をかけ、映像もシナリオもこだわり抜いて作られた本作は、美しく迫力ある映像を楽しみながら、宇宙の最新理論について学べ、そして小松さんの「宇宙の果てを見た」という体験の片鱗を味わうことができる作品に仕上がっている。上映が終わって座席から立ち上がった瞬間、足をつけて立っているこの地球と、そしてその周囲に広がる宇宙の見方、捉え方が、これまでとは少し違ったものになるかもしれない。
『HORIZON ~宇宙の果てにあるもの』は、現在のところ、来春より鹿児島市立科学館での上映が決まっているほか、今後も日本全国のプラネタリウムで上映が予定されている。また、英語版の制作も予定されており(10月完成予定)、海外展開も視野に入れているという。
今後の詳しい上映場所、期間などは、公式Webサイトをご参照いただければと思う。
スタッフ(敬称略)
- 企画・総合プロデューサー:上坂 浩光
- プロデューサー:田中 正明
- 監督:上坂 浩光
- シナリオ・絵コンテ:上坂 浩光
- 音楽プロデューサー:安念 透
- 音楽:酒井 義久
- 監修:小松 英一郎
出演者(敬称略)
- 小松 英一郎(CV:有沢 俊浩)
- ジェフリー・ロウ(CV:阪口 周平)
- マキシム・コレスニック(CV:加藤 亮夫)
- マンスール・ファケル(CV:岩城 泰司)
- パティス・トラングレ(CV:佐藤 健輔)
- ペアン・ピエッレ(CV:星 光明)
- アルバート・デグチャリョフ(CV:山本 満太)
- スティーブン・スミス(CV:高瀬 右光)
- グスタフ・ストランデル(CV:坂詰 貴之)
- アンゼリカ・プロンキナ(CV:藤井 裕子) 他
制作
- 有限会社ライブ
配給
- 株式会社 五藤光学研究所
予告編
HORIZON ~宇宙の果にあるもの(トレーラー)