東北大学は、岡山大学自然生命科学研究支援センターの加藤百合特任助教、宮地孝明准教授と同大学大学院医歯薬学総合研究科、松本歯科大学、久留米大学、九州大学、東京農業大学、味の素との共同研究グループが、骨粗鬆症治療薬クロドロン酸が分泌小胞内にATPを運ぶ輸送体(VNUT)を阻害することで、神経因性疼痛や炎症性疼痛、さらには慢性炎症を改善できることを突き止めたことを発表した。この成果は7月18日、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」電子版に掲載された。
慢性疼痛の罹患者は世界の人口の20~25%であると言われているが、副作用の少ない効果的な鎮痛薬はこれまで開発されていない。骨粗鬆症治療薬のひとつであるビスホスホネート製剤は世界中で利用されているが、骨疾患の罹患者に対して複数の鎮痛効果があることが臨床報告されていた。
同製剤は第三世代まで開発されており、第一世代は骨粗鬆症治療効果が弱いため副作用も少ない。第二世代、三世代は骨粗鬆症治療効果が強く、副作用が問題になることがあった。東北大学のグループの先行研究結果においても、副作用の少ない第一世代のビスホスホネート製剤に鎮痛効果があることを示していたが、その作用メカニズムは長らく不明であった。
研究グループは、疼痛を引き起こす神経伝達を遮断するために、神経伝達の起点となる伝達物質の分泌機構に着目。第一世代のビスホスホネート製剤がこの分泌に必須である小胞型神経伝達物質トランスポーターを阻害するかを検証した結果、 第一世代のビスホスホネート製剤であるクロドロン酸が小胞型ヌクレオチドトランスポ ーター(VNUT)を選択的かつ可逆的に極めて低濃度で阻害し、神経細胞からのATP放出が遮断されることを突き止めた。
研究グループは以前、VNUTは塩素イオンにより輸送がアロステリックに活性化され、脂質代謝物のケトン体によりオフされる分子スイッチを持っていることを明らかにしていた。今回、クロドロン酸はこのスイッチを選択的にオフすることで輸送活性を抑制していることが判明した。
また、研究グループは、慢性疼痛を引き起こす原因になる慢性炎症にも着目。クロドロン酸は免疫細胞からのATP分泌を遮断することで、炎症性疾患の原因となる炎症性サイトカイン量が低減し抗炎症効果を発揮することを見いだした。クロドロン酸は抗炎症薬である非ステロイド性抗炎症薬よりも強力であり、一般的なステロイド製剤(商品名:プレドニン) と同等の抗炎症効果を示したという。
これらの研究成果より、神経細胞や免疫細胞に取り込まれたクロドロン酸がVNUTを阻害し、ATP放出を選択的に遮断することにより、神経因性疼痛や炎症性疼痛、さらには慢性炎症に対して治療効果を発揮することを明らかになった。また、クロドロン酸は欧米では既承認医薬品であるため、ヒトでの安全性も実証されている。ドラッグリポジショニングにより、開発期間の短縮・開発コストの軽減等が可能になり、より早く研究成果が社会還元できると期待される。今後、さまざまな難治性疾患に関してクロドロン酸の治療効果を 探索することで、さらなる研究の発展が期待されると説明している。