東北大学は、マウス胎仔生殖細胞の代謝状態が、多能性幹細胞や体細胞とは大きく異なることを見出し、さらにエネルギー代謝の特徴的な変化が生殖細胞の形成・生存と再プログラム化に影響を与えることを明らかにしたと発表した。
同研究は、東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターの松居靖久教授と林陽平助教らの研究グループと、東北大学メディカルメガバンク機構、 慶應義塾大学先端生命科学研究所の共同研究によるもので、同研究成果は、米国科学アカデミー紀要(Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America)電子版に掲載された。
細胞の代謝状態は、細胞機能の制御に重要と考えられますが、生殖細胞の代謝状態が分化の過程で、どのように変化し、それが生殖細胞の性質にどのような影響を与えるかは分かっていなかったという。同研究チームは、まず、生殖細胞特異的に緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するトランスジェニックマウスを用い、GFP陽性の生殖細胞とGFP陰性の生殖巣体細胞を精製。次に、それらを使った網羅的な代謝化合物解析(メタボローム解析)、タンパク質解析(プロテオーム解析)を行い、生殖細胞では体細胞や多能性幹細胞(胚性幹細胞;ES細胞)と比較して、アミノ酸と核酸の合成経路が亢進していること、さらに解糖系の抑制と、ミトコンドリアで効率よくエネルギーを産生する酸化的リン酸化の亢進が起こっていることを見出した。
また、様々な胎齢由来の胎仔生殖細胞のエネルギー代謝活性を測定し、胚発生の進行に伴う生殖細胞の分化過程で、解糖系活性の低下と、酸化的リン酸化活性の上昇が、逐次的に起こることがわかった。さらに培養系に阻害剤を添加することで酸化的リン酸化を阻害すると、生殖細胞の形成と生存が顕著に抑制されることが明らかとなった。また同様に、解糖系を阻害した場合は、胎仔生殖細胞の多能性幹細胞への再プログラム化が阻害され、また生殖細胞の形成も影響を受けることがわかったという。
これらの研究成果から、胎仔生殖細胞では核酸とタンパク質の生合成が亢進している可能性が示唆され、さらにミトコンドリアでの効率の良いエネルギー産生が生殖細胞の形成と維持に必須であることが明らかになり、こういった代謝の特徴が、次世代個体を担う精子・卵子に分化する上で重要な役割を果たしている可能性が示された。今後、エネルギー代謝経路の変化に関わる遺伝子を同定し、その変異が引き起こす配偶子形成異常を調べることなどにより、生殖細胞における代謝異常と不妊や先天性異常との関連を解明することが期待できるということだ。