産業技術総合研究所(産総研)は、同所スピントロニクス研究センター 電圧スピントロニクスチームの塩田陽一氏と野崎隆行氏が、電圧書き込み方式の磁気メモリー(電圧トルクMRAM)の書き込みエラー率を飛躍的に低減させる技術を開発したことを発表した。この成果は7月13日(米国現地時間)、米国応用物理学会誌「Applied Physics Letters」オンライン版に掲載された。
IT機器の充電ストレスフリー化に向けて、消費電力のさらなる低減が求められており、そのひとつのアプローチに不揮発性エレクトロニクスデバイスの開発がある。スピントロニクス分野では、磁石の磁化が持つ不揮発性機能を利用した待機電力ゼロの不揮発性メモリーMRAMの開発が行われているが、現在開発が進められているMRAMでは電流書き込み方式が採用され、電流による発熱を原因とする不要な電力消費が駆動電力低減の障害として懸念されている。
一方、電圧トルクMRAMは、原理的に電流が不要な超低消費電力性、ナノ秒程度の高速動作、繰り返し耐性などの特徴を有し、次世代MRAMとして期待されているが、書き込みエラー率の低減が課題となっていた。
研究チームは今回、記憶層となる超薄膜金属磁石層の作製プロセスを改善して、高い熱じょう乱耐性と高い電圧磁気異方性変調効率を両立する記憶層を開発し、単一パルスによる書き込みエラー率の低減に取り組んだ。
今回、記憶層となる超薄膜金属磁石層の作製プロセスを改善して、高い熱じょう乱耐性と高い電圧磁気異方性変調効率を両立する記憶層を開発し、単一パルスによる書き込みエラー率の低減に取り組んだ。
非常に薄い金属磁石層(記憶層)を持つ磁気トンネル接合素子(MTJ素子)に、ナノ秒程度のごく短い時間電圧パルスをかけると、磁化反転を誘起できる。今回、記憶層の磁気特性を最適化し、電圧磁気異方性変調効率と熱じょう乱耐性Δ0を向上させて、書き込みエラー率をこれまでの報告値(10-2~10-3)より二桁以上低減(2×10-5)した。
これにより、1回のエラー訂正(ベリファイ)の実行で実用的な書き込みエラー率を実現できる。電圧書き込み方式は原理的に電流が不要なため、現在MRAMの主流である電流書き込み方式と比較して飛躍的な低消費電力化が可能となる。
今回の成果により、高信頼性と高速性を持つ超低消費電力電圧トルクMRAMの研究開発の加速が期待される。今後は、さらなる書き込みエラー率低減に向けた新材料開発に加え、実デバイス上での安定な書き込みを実現するために特性バラつきを改善し、併せて電圧トルクMRAM用回路技術の開発を進めるということだ。