さまざまなITベンダーがAI機能を備えた製品の提供を開始する中、米OracleもAI市場に乗り出した。同社のAI戦略は、2016年秋に米サンフランシスコで開催された年次カンファレンス「Oracle OpenWorld 2016」で、「Oracle Adaptive Intelligent Applications」として発表された。そして今年4月末、当初の予定通り、「Customer Experience(CX Cloud)」向けに限定的な提供を発表した。

Adaptive Intelligenceの特徴は「すぐに使える」ことだ。APIセットや開発プラットフォームを別途用意するのではなく、CX Cloudに埋め込まれており、データから学習して適応することができる。

最初のリリースとなる「Adaptive Intelligent Offers」は、データをもとに顧客に最適なオファーを提案するもの。5月初めに米国本社で開催された「Oracle Media Day」で、Oracle Applications製品開発担当エグゼクティブバイスプレジデントのSteve Miranda氏は、AIの具体的なユースケースとして、次の2つを挙げた。

Oracle Applications製品開発担当エグゼクティブバイスプレジデント Steve Miranda氏

  • 1度購入した電子商取引(EC)サイトに行くと過去の購入履歴に基づいたレコメンデーションが表示される

  • 匿名化されたデータ、cookie、モバイルデバイスなどの情報を使ってログインしていないユーザーに対しても、ホテルの予約後にソーシャルメディアやニュースサイトを訪問すると関連する広告が表示される

データとしては、「Commerce Cloud」などのOracleクラウドにあるデータ(ファーストパーティデータ)に加え、Oracleが構築している「Oracle Data Cloud」からのデータも機械学習にフィードできる。Oracle Data CloudはOracleがBlueKai、Datalogix、Moatといった企業の買収により構築、強化しているサードパーティデータのデータクラウドで、50億件のコンシューマーおよび企業のID、7万件以上の属性情報などを含む。

約1500億のデータポイントからデータを収集しており、コンシューマーデータとしては、クレジットカードの購入履歴、クッキー情報、顧客プロファイル、クリックストリームなどの情報があるという。「世界最大級のデータマーケットプレイス」とMiranda氏。そしてこのData Cloudこそ、Oracleが今後、AI戦略とマーケテイングクラウドでの競争において差別化としていくものだ。Oracleは独自のデータセットを有している。これは競合にはないものだ」と、Miranda氏は説明する。

サードパーティのデータは一時的にファーストパーティデータと結合され、フィルタリング、学習、予測アルゴリズムなどのAI機能で利用される。Oracle Data Cloudに匹敵するような顧客データを持つのは現在、Google、Facebookといった企業だが、OracleのCEOを務めるMark Hurd氏は「われわれはデータのプロバイダーを目指している。(Google、Facebookなどとは補完的な関係にあり、Oracleの顧客に加え、GoogleやFacebookを支援することもできる」と語ったほか、Oracle Data Cloudについては「データビジネスは重要な事業になるだろう」と、Oracle全体から見ても重視していることを匂わせた。「長期的にデータは通貨になる」とも述べている。

Oracle CEO Mark Hurd氏

なお、データの収集や保管は世界のプライバシー規制を遵守しており、個人情報は各国のCommerce Cloudインスタンス上で保管され、複製されることはないという。

「電子商取引やマーケティングは、機械情報を利用してコンシューマーの反応をベースとした最善のアクションを取ることができる」とMiranda氏。顧客が望んでいる情報を補完表示したり、レコメンデーションを変えたりするなど、より細かなパーソナライズが可能になる。Oracleの複数のSaaSを利用している場合、「Service Cloud」と「Sales Cloud」など、クラウド間でデータを共有することでさらに精度や粒度を上げることができる。これにより、よりターゲッティングを絞り込んだオファーや顧客にあったサービスを提供できるという。

加えて、柔軟なプラットフォームにより使えば使うほど賢くなるのもポイントだ。「アルゴリズムによりうまくいったか、いかなかったかを継続的に測定し、その結果から学んで調整する」と、Miranda氏は語る。

方向性としては、使えるAIを提供するため、ユースケースを重視する。「アプリケーションがユースケース主導であるところが重要。特定のデータがあり、特定のビジネス問題に対してレコメンするなど、アプリケーションに表面化されて改善するAIを提供する」とMiranda氏。

OracleはCX Cloud向けとして、営業では次に取るべきアクションやリードのスコア化、サービスでは回答の自動化や個別のセルフサービスなどを実現していく。また、人事(HCM)、ERP、サプライチェーンなどのSaaSについてもAdaptive Intelligenceの提供を拡大して行く予定だ。

この分野のAIでは、競合のSalesforce.comも2016年秋に「Einstein」を発表、すでに提供を開始している。