中華人民共和国(中国)は7月2日、最新鋭の大型ロケット「長征五号」を、海南島にある文昌宇宙センターから打ち上げた。

長征五号は、昨年11月に初の打ち上げに成功。今回が2号機で、先端部には新型かつ、最先端の機器を搭載した技術試験衛星「実践十八号」を搭載していた。

しかし打ち上げから約1時間後、中国国営の新華社通信は、「ロケットの飛行中に問題が起きた」とし、打ち上げが失敗に終わったと報道。ロケットを開発した中国航天科技集団公司も、打ち上げ失敗を認める声明を発表した。

古今東西、新型ロケットの打ち上げ失敗は珍しいものではない。とくに長征五号は、中国にとって新開発の技術をふんだんに使っていることから、この時期での失敗は"生みの苦しみ"であるともいえる。しかし、長征五号での打ち上げを前提にした、大型の月探査機や宇宙ステーションなどの今後の宇宙計画には、決して少なくない影響を与えることになるだろう。

長征五号ロケット(昨年11月に打ち上げられた1号機のもの) (C) CALT

長征五号ロケットの打ち上げ(昨年11月に打ち上げられた1号機のもの) (C) The State Council of the PRC

問題は第1段で起きたか?

長征五号は、日本時間7月2日20時23分(北京時間同日19時23分)、中国の海南島にある文昌宇宙センターから打ち上げられた。

中継映像では、ロケットは中央のコア・ステージと4基のブースターに正常に点火し、離昇。ブースターや第1段を分離しつつ順調に飛行を続け、やがて第2段の飛行に移った。予定では、打ち上げから約30分後に実践十八号を分離し、静止トランスファー軌道に投入することになっていたが、しかし衛星の分離より前に、中継は打ち切られることになった。

その後、打ち上げから約1時間が経ったころに、中国国営の新華社通信などは「ロケットの飛行中に問題が起きた」とし、打ち上げが失敗に終わったと報道。ロケットを開発した中国航天科技集団公司も打ち上げ失敗を認める声明を発表した。さらにその後、衛星は軌道にすら乗れず、ロケットとともに大気圏に突入して失われた、完全な失敗だったことが明らかになった。

7月4日現在、問題の詳細や原因などはまだ明らかになっていない。

ただ、実は失敗の兆候は、生中継の画面にしっかり映し出されていた。まず第1段と第2段の分離が、予定よりも100秒も遅かったことが判明している。さらにカメラがロケットの管制センターのスクリーンを映し出していたとき、そこに出ていたグラフからは、高度の値がどんどん下がっていることが読み取れた。

また、事故と関連があるかどうかは不明なものの、飛行中のロケットから送られてきた映像からは、機体側面からガスが勢いよく吹き出していることも確認されていた。中継が途中で打ち切られたのは、おそらくこうした失敗の兆候がまざまざと映ってしまっていたからだったと考えられる。

さらにその後、非公式の情報として、ロケットの第1段にある2基のロケットエンジンのうち、1基の圧力が急激に落ちていたことが判明したという。

これらの状況を整理すると、第1段の飛行中に、何らかの理由で2基のエンジンのうち1基に異常が起き、もう1基のエンジンを予定より長く噴射することで挽回しようとするも果たせず、第2段を分離。これが第1段と第2段の分離が、予定より約100秒遅かった理由であろう。そして、おそらく第2段のエンジンも同じように、速度と高度を挽回しようと噴射を続けたものの力及ばず、軌道速度を出せずに地球に落下した、と考えられる。

長征五号ロケット(昨年11月に打ち上げられた1号機のもの) (C) CALT

長征五号ロケットの第1段機体 (C) CASC

今回が2機目の打ち上げだった長征五号

長征五号は、中国が新世代の主力ロケットのひとつとして開発した最新鋭ロケットである。2016年11月に初めて打ち上げに成功し、今回が2機目の打ち上げだった。

中国はこれまで、長征二号、三号、そして四号という大きく3種類のロケットを運用してきた。毎年20機前後が打ち上げられ、比較的高い成功率をもっている。しかし、これらは1960~70年代に開発されたロケットに、エンジンや機体に改良を加えて使い続けているにすぎない。信頼性はあるものの、打ち上げ能力の向上やコストダウンの余地はもはやほとんどなく、まったく新しい次世代ロケットが求められた。

そこで開発されたのが、長征五号と、そして長征六号と長征七号である。長征五号は大型~超大型に分類されるロケットで、大型の静止衛星から月・惑星探査機、宇宙ステーションのモジュールなど、重く質量の大きな、やや特殊なペイロードを打ち上げるのに使う。長征六号は小型ロケットで、地球観測衛星などの中型~小型の低軌道衛星を迅速に打ち上げる能力をもつ。

そして長征七号は中型~大型ロケットで、標準的な大きさの地球観測衛星から通信衛星、そして有人宇宙船などを打ち上げる、主力ロケットと位置づけられている。

この長征五号、六号、七号の最大の特徴のひとつは、「YF-100」と呼ばれる高性能なエンジンを積んでいるところにある。YF-100は液体酸素とケロシンを推進剤に使い、高い推力が出せるのと同時に、さらに二段燃焼サイクルという、高い効率でエンジンを動かせる仕組みを採用している。

また、そのエンジンや、さらに機体の一部を、それぞれのロケットで共有している点も特徴である。たとえばYF-100は、長征六号のメイン・エンジンであり、長征七号のメインとブースターのエンジンでもあり、さらに長征五号のブースターのエンジンとしても使われているし、また長征六号のタンクと、長征七号のブースターのタンクは直径が同じで、製造方法や治具を流用することができるようになっている。

こうしたエンジンや機体の共有は、大量生産や高頻度の打ち上げ機会の確保による、低コスト化や信頼性の向上などに寄与している。

このうち最初に完成したのは長征六号で、2015年に1機が打ち上げられている。その後、長征七号が2016年と今年に1機ずつ打ち上げられて成功。長征五号は2016年11月に初の打ち上げに成功し、今回が2号機にして、そして初めての失敗となった。

今回、問題が起きたと伝えられている長征五号の第1段エンジンは「YF-77」と呼ばれるもので、液体酸素と液体水素を推進剤に使う。この組み合わせは高い燃費をもち、性能のよいロケットにすることができる。中国は1980年代から、この組み合わせのエンジンを開発、実用化しており、YF-77はその長年の技術の集大成ともいえるエンジンに仕上がっている。もっとも、米国や欧州、日本などでは、より効率のよい、あるいは推力の大きなエンジンもあるため、世界最先端ではあっても、世界一というわけではない。

ちなみにYF-100とは違い、YF-77を装備するのは長征五号のみで、長征六号や七号には使われていない。またYF-77に問題があったと決まったわけではないが、仮にそうだとしても、長征六号や七号の運用に影響はない。

小型ロケットの「長征六号」。長征五号と一部のエンジンを共有している (C) SAST

中型~大型ロケットの「長征七号」。長征五号や六号と、一部のエンジンやタンクなどを共有している (C) The State Council of the PRC