東京工業大学(東工大)は7月4日、可視光のみで1個の分子の3次元位置をÅの精度で決定することに成功したと発表した。
同成果は、東京工業大学理学院物理学系の大学院生 古林琢氏、本橋和也氏、(研究当時)、松下道雄准教授、藤芳暁助教らの研究グループによるもので、6月23日付けの米国科学誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。
生命現象には無数の分子が関わっており、その生体内部での振る舞いにはさまざまなモデルが提唱されている。しかし、観察に適した顕微鏡が存在しなかったため、モデルを生命現象の解明につなげることは困難な場合が多い。たとえば、生体試料を測定できる最も高解像度なクライオ透過電子顕微鏡では、高い解像度を出すためには試料を薄くスライスする必要があり、細胞全体を観察することができない。また、生体試料全体を見渡せる光学顕微鏡では、解像度が最も高い超解像蛍光顕微鏡でも分子レベルには1桁足りない。
光学顕微鏡の解像度の限界を決めるのは、被写体である生体分子の動きである。クライオ透過電子顕微鏡と同様に、試料を超流動ヘリウム中で-271℃まで冷却すれば、分子の動きが完全に凍結し、分子レベルの鮮明な画像が観察できると考えられる。
同研究グループは2004年より、独自開発した超流動ヘリウム中で使える対物レンズを用いて、極限の光学性能と優れた機械的安定性を持つクライオ蛍光顕微鏡を開発してきた。今回、同顕微鏡を用いて、色素1分子の3次元位置をÅの精度で決定することに成功した。この解像度は既存の光学顕微鏡よりも1桁以上高く、分子解像度に到達している。
同研究グループは現在、生命現象の画像化に向けた研究を行っているという。