米パデュー大学、オークリッジ国立研究所と台湾国立成功大学の共同研究チームは、カリウムイオン電池に関する3つの研究成果を発表した。電極材料の改良により、電池のサイクル寿命向上などが実現できたという。研究論文は「Applied Materials and Interfaces」「Chemical Communications」「Journal of The Electrochemical Society」の3誌に掲載された。
地球上のカリウムの存在量はリチウムの約8倍と豊富であり、そのコストはリチウムの1/10程度で済むとされる。このため、金属イオンとしてリチウムの代わりにカリウムを使ったカリウムイオン電池は、次世代の低コスト二次電池として研究が進んでいる。特に、太陽光発電や風力発電など出力の安定しない電源に付設して、発電された電力を一時貯蔵することで出力安定化させる大規模蓄電設備用途などでの実用化が期待されている。
第1の論文では、カリウムイオン電池の負極にカーボンナノファイバーを用いる新しいデザインが説明されている。
従来のリチウムイオン電池では、充電中にリチウムイオンを貯蔵する負極材として、主にグラファイト(黒鉛)が使われてきた。今回のカリウムイオン電池では、負極材をカーボンナノファイバーに替えることにより、1900回の充放電サイクル(1Cレート)で容量密度170mAh/gを実現したという。サイクル寿命が向上したのは、一次元のファイバーが絡まったネットワーク構造を作るため、充電中のイオン吸蔵による電極の膨張に順応しやすく、材料安定性が良くなるためであると考えられる。
カーボンナノファイバーを使うことで充電時間の短縮も可能になった。これは従来のリチウムイオン電池の電極材料の構成粒子の粒径に比べて、カーボンナノファイバーが小さいことからイオンの移動距離が短くて済むためであると考えられる。研究チームによると、容量密度110mAh/gまで充電するのに6分しかかからなかったという。
カーボンナノファイバーは、電界紡糸法(エレクトロスピニング)で作製する。これは、ポリマー溶液に高電圧をかけて射出することによって、非常に細いカーボンファイバーを得る手法である。ファイバー表面は酸素および窒素を付着させて官能基化する。酸素官能基には酸性電解液による腐食を減らす効果、窒素官能基にはカーボンナノファイバーの導電性を向上させる効果がある。
第2の論文では、二次元状の無機化合物である「MXene」を用いた新型のカリウムイオン電池について報告している。
カリウムイオンはリチウムイオンに比べて原子サイズが大きいため、一般的には負極のカーボン層の間に入り込んで移動するのが難しいという問題がある。今回の研究では、チタンと炭素、窒素の化合物で構成されたMXeneを負極材料に用いて、その電気化学的な性能を評価した。MXene負極では、層間でのカリウムイオンの動きにくさを軽減でき、効率の良い充放電を行える可能性があることを示す結果が得られたとしている。
また、カリウムイオン電池では負極側の集電体として、通常使われる銅よりも安価なアルミニウムを使える可能性があり、このことも電池の低コスト化に寄与すると研究チームは指摘している。
第3の論文では、タイヤ廃棄物に由来する炭素を使ってカリウムイオン電池用負極を作る研究が報告されている。
タイヤのゴムに化学処理と熱分解処理を行うことによってハードカーボンに還元し、負極材料として再利用する。ハードカーボンでは炭素層のランダムな配列が見られ、これが層間でのカリウムイオンの移動を可能にするという。
放置されたタイヤ廃棄物は深刻な環境問題を引き起こしているため、これを電池材料としてリサイクル技術は非常に重要であると研究チームは強調している。