科学技術振興機構(JST)は、大陽日酸、日新製鋼、大阪大学大学院工学研究科の赤松史光教授らの研究グループが、水素エネルギー社会実現に向けた工業炉のアンモニア直接利用技術について共同研究を実施しており、大陽日酸 山梨研究所に設置した燃焼加熱実験炉において検討を重ねた結果、連続溶融亜鉛めっき鋼板製造工程における連続焼鈍炉の前処理として、アンモニアの燃焼エネルギーを有効利用できる「アンモニア混焼衝突噴流式脱脂炉」のバーナ開発に成功し、最適加熱条件を確立したことを発表した。
日本では年間約14億トンのCO2が排出されている。その40%を産業分野が占め、さらにその25%は素形材産業を支える約4万基におよぶ工業炉から排出されており、さらなる省エネルギー技術や化石燃料に代わる新たな燃料を用いる燃焼技術の開発が急務となっている。
これまで新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)事業などの連携プロジェクトにおいて、化石燃料の高エネルギー利用効率型の工業炉の開発が推進されており、その効率は理論限界に近い80%以上の実績を得ており、この分野での更なるCO2排出量削減技術の開発が、水素エネルギー社会を目指す上で重要である。
大陽日酸は、今回の取り組みを通じ、メタン-アンモニア混焼においてもメタン専焼と同等の鋼板加熱性能が得られるバーナを開発した。脱脂炉の燃料として、メタン専焼と燃焼により発生した熱量がトータルで同じになるようにメタンの代わりにアンモニアを混ぜる量を10%、20%、30%と増やしていった結果、いずれの燃料の場合でも鋼板表面の温度分布は均一であり、400℃付近で同等であることが確認された。
日新製鋼では、メタン-アンモニア混焼において、鋼板加熱条件と鋼板の表面状態の評価およびめっき性の関係評価を行い、条件の最適化を行うことにより従来法と同等以上の脱脂性能が得られることを確認した。同時に従来技術のアルカリ脱脂と同等の脱脂効果を示すアルコール洗浄との比較も行い、メタン-アンモニア混焼率30%においても、メタン専焼と同等かつアルカリ脱脂以上の効果を示すことが確認された。
大阪大学では、メタン-アンモニア混焼火炎から鋼板への伝熱過程を詳細に解明するために、光学計測が適用可能な実験装置を構築し、メタン-アンモニア混焼バーナの最適設計の指針となるデータの取得を行った。
従来、鋼板はその加工工程で圧延工程を経た原料鋼板の表面に付着する油をアルカリ脱脂工程や無酸化炉を通し、鋼板表面に付着している油分を除去してから亜鉛めっきをしていたが、この開発により、都市ガス(メタン)を燃料とする衝突噴流脱脂炉を設置、アルカリ脱脂工程や無酸化炉といった亜鉛めっき工程の一部設備が不要となることで、プロセスが簡素化するとともに、アルカリ溶液や無酸化炉用の燃料が不要となる。
さらに、今回開発されたバーナは、現行の最高水準と同等のエネルギー利用効率が得られる。現在の連続炉と比較して、アンモニア混焼式衝突噴流脱脂炉を導入した場合には、エネルギー効率の向上と併せてCO2排出量を約50%以下に抑えられる伝熱特性があることが検証できた。将来的にはアンモニア専焼とすることで、Co2排出ゼロの達成も可能となるという。
今後は日新製鋼 堺製造所の溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインに実証設備を設置し、一気通貫でのプロセス評価や品質評価、商業生産ラインにおける実機設備の導入効果の見極め、アンモニア燃焼技術の工業炉分野への社会実装を目指すということだ。