「ゲノム編集」と呼ばれる遺伝子改変の技術を用いた、血友病の治療につながる新しい方法を開発したと、自治医科大学医学部生化学講座病態生化学部門の大森司(おおもりつかさ)教授らの研究グループが発表した。血友病のマウスを使った実験で、治療に成功したという。

図 研究イメージ(自治医科大学の大森さんら研究グループ作成・提供)

血友病は、血液の中にある血液をかためる成分の一つ「凝固因子」の遺伝子異常による病気で、出血が止まりにくいことで様々な症状を引き起こす。これまでは凝固成分を補う注射を定期的に行なう治療が一般的だった。しかし、これは患者への身体的、金銭的負担が大きい上、完治を目的とするものではなかった。

血液の凝固因子は、肝臓で作られる。そこで、研究グループは、血友病のマウスの肝細胞をゲノム編集して、正常な状態に改変する方法を試した。利用されたのは2つの技術、ゲノム編集技術として近年爆発的に普及した「クリスパー・キャス9」と、遺伝子を特定の臓器に送り込む「運び屋」となるウイルスベクター「アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター」を組み合わせたものだ。

研究グループは、まず2つの対となるAAVベクターを作成した。一方には、遺伝子の特定の位置を切るハサミの役割を果たすクリスパー・キャス9、もう一方には血友病の原因となる遺伝子異常を修復するための遺伝子配列が入っている。この2つのAAVベクターを血友病のマウスに注射する。するとまず、AAVベクターによってマウスの肝臓へと運ばれたクリスパー・キャス9が、肝細胞の遺伝子の特定の位置を切る。そこにもう一方の修復用の凝固因子の遺伝子配列が挿入されることで、肝細胞の遺伝子を改変するという仕組みだ。これにより、血友病のマウスの遺伝子の修復に成功したという。

ゲノム編集されたマウスでは、血中の凝固因子が、最大で正常のマウスの10~20%まで上昇し、出血が止まりにくい症状が改善した。人間の場合では、正常の5%程度あれば、日常生活では問題がないとされている。また、生まれて間もないマウスでの実験では、成長によって注射されたAAVベクターが体内から減少しても、効果が長期間持続することが確認された。

AAVベクターは安全性が高いベクターとされ、さまざまな疾患の治療のために、世界では既に150を超える臨床研究が行なわれている。今回の技術を用いることで、特にこれまで困難であった乳幼児期の治療が可能になると期待されている。研究グループは、今後の検証を進め、一日も早い臨床応用を目指しているという。

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