理化学研究所(理研)などは6月28日、不安定原子核を見るための新しい電子散乱実験装置を完成させたと発表した。またこれを用いてキセノン-132 (132Xe:陽子数54、中性子数78)原子核の陽子分布を決めることに成功している。

同成果は、理研仁科加速器研究センターRI・電子散乱装置開発チーム 若杉昌徳チームリーダー、東北大学電子光理学研究センター 須田利美教授、立教大学理学部物理学科 栗田和好教授らの研究グループによるもので、6月27日付けの米国科学誌「Physical Review Letter」オンライン版に掲載された。

電子散乱現象は、電子が原子核の近くや内部を通過する際に、核の内部構造を反映した変調を受けて跳ね返ってくる現象。この跳ね返ってきた電子を分析することによって、原子核の内部構造情報を引き出すことができる。

従来の電子散乱実験は、標的となる元素の薄膜を作り、それに電子ビームを照射するというものであったが、この方法では標的原子核の数が最低でも1020個必要となる。人工的に作り出す不安定核は、実験室で大量に作ることは不可能で、たとえ作ったとしても寿命が短くすぐに壊変してしまうため、不安定核で電子散乱実験を行うことは不可能であった。

そこで同研究グループは、スクリット法(SCRIT法:Self-Confining RI Ion Target)と呼ばれる、電子散乱実験をより少量の標的核数で実現させる手法を新たに開発した。SCRIT法は、標的イオンを細い電子ビームの通り道にトラップして集中させることで、自動的に電子散乱現象を引き起こさせる方法。この仕組みを、リング状の真空チューブの中を電子ビームが無限に周回する電子蓄積リングの中に作り込むことによって、108個の標的核数で電子散乱実験が可能となる。

SCRITの原理。標的イオンを電子ビームに沿わせて流し込むと、標的イオンは自然に電子ビームに引き寄せられる。前後に逃げないように静電バリアを設置する。こうして標的イオンは電子ビームの通り道に線状にトラップされ、どこにも逃げずに電子ビームの通り道に浮遊している状態を作り出している。電子はときどき、自身で抱え込んだ標的イオンに衝突して軸の外へ散乱される (画像提供:理化学研究所)

同研究グループは、このSCRIT装置を装備した不安定核電子散乱実験施設を理研仁科加速器研究センターに、2009年から約6年をかけて完成させた。今回の研究では、同施設を使って、同位体分離器ERISから取り出されてきた約108個の132Xe原子核をSCRIT装置に流し込むことによって、132Xe原子核から散乱される電子を観測し、散乱の角度分布から132Xe原子核の陽子分布を決めることに成功した。

132Xeは安定核だが、実験は不安定同位体の実験とまったく同じ仕様で行われたため、ERISによる本格的な不安定核生成の開始により不安定核陽子分布測定が可能になるという。