科学技術振興機構(JST)と理化学研究所(理研)は、JST戦略的創造研究推進事業において、理研 環境資源科学研究センター 植物ゲノム発現研究チームの金鍾明研究員、関 原明チームリーダーらが、植物に酢酸を与えると乾燥に強くなるメカニズムを発見したことを発表した。この成果は6月26日、英国科学誌「Nature Plants」オンライン速報版で公開された。
急激な乾燥や干ばつの発生は、トウモロコシやコムギをはじめとする作物生産量の低下につながっている。植物を乾燥や干ばつに強くするには、遺伝子組み換え植物の利用がこれまでの主流であったが、遺伝子組み換え植物の作出には時間や費用がかかることから、同技術に頼らずに植物の乾燥耐性を強化する技術の開発が望まれていた。
研究グループは、シロイヌナズナを用いて乾燥処理による植物体内の代謝変化を調べた。その結果、乾燥時には生命活動に必要なエネルギーを得るための中心的な代謝経路である解糖系が強く抑制されるだけでなく、酢酸の生合成量が増加することを発見した。
酢酸は解糖系の中間代謝物であるピルビン酸から生合成されることから、乾燥処理により、植物体内で中心代謝経路の変化が起きていることがわかった。さらに、シロイヌナズナに酢酸を与えると乾燥耐性が強くなることを発見した。
次に、シロイヌナズナに酢酸を与えた時に生じる変化について調べたところ、傷害応答に関わる植物ホルモンであるジャスモン酸の生合成が誘導され、吸収された酢酸がDNAと相互作用するヒストンタンパク質にアセチル化修飾として取り込まれ、ジャスモン酸の下流ネットワーク遺伝子群が活性化されていることがわかった。
また、その他の有用作物についても、酢酸を与えることで乾燥耐性が強化されることが明らかになった。
研究グループはこれらの成果について、植物の酢酸-ジャスモン酸経路を介した新規乾燥耐性機構の発見、植物の乾燥応答をエピジェネティックな因子が直接制御していること、酢酸-ジャスモン酸を介した乾燥耐性システムが幅広い植物種に進化的に保存されていることを示すものだと説明している。
また、今回発見された「酢酸-ジャスモン酸経路を介した植物の乾燥耐性機構」は、これまで知られていなかったメカニズムであり、今後も研究を続けることで、さらに多くの重要な遺伝子・物質の発見や、植物が環境刺激を記憶するメカニズムの解明につながるという。この研究成果は、遺伝子組み換え植物に頼らず、植物に酢酸を与えるだけで、急激な乾燥や干ばつに対処できる簡便・安価な農業的手法として役立つことが期待されるということだ。