矢野経済研究所は6月26日、国内のワークスタイル変革(働き方改革)ソリューション市場の調査を実施したと発表した。これによると、働き方改革はホワイトカラーに留まらず現場業務でも拡大し、多様な業務領域において進んでいるという。
今回の調査では、働き方改革を目的として業務効率化・生産性向上を実現する ICT ソリューション・サービス・製品をワークスタイル変革ソリューションと定義し、主な対象分野は環境(ファシリティ・設備)、端末・デバイス、営業・プロセス・ワークフロー効率化、コミュニケーション・情報共有、人事・労務・総務関連などである。具体的なサービス・製品には、フリーアドレス構築、テレワークシステム、シンクライアント・クライアント仮想化(VDI:Virtual Desktop Infrastructure)、ビデオ・Web 会議システム、社内 SNS・ビジネスチャットなど。
調査期間は2017年1月~6月、対象はワークスタイル変革ソリューション提供事業者、ソリューション導入ユーザー、関連団体などとなり、同社の専門研究員による直接面談、電話・電子メールによる取材、ならびに文献調査を併用した。
これまで、働き方改革はオフィスおよび社内システムの改革を中心に実行されているが、在宅勤務やモバイルワーク(オフィス外での業務遂行)、フリーアドレス(個人用デスクのないオフィス環境)、クラウドサービスやファイル共有システムによるペーパレス推進、ビデオ・Web会議システムの導入による拠点間会議の実現など、主に改革対象は本社・拠点のホワイトカラーの業務であったという。
一方、近年では働き方変革はホワイトカラーだけに留まらず、工場・店舗・コールセンターなどにおいても取り組みが進展しており、例えば製造工場においてはウェアラブルカメラを用いたマニュアル自動作成システム、製造ライン状況の可視化、ICタグを活用した倉庫内運搬チェックシステム、電子掲示板(デジタルサイネージ)を活用した社内広報や緊急情報など、従業員が個別にPC端末を持たない状況下での働き方における情報共有の在り方にも改革が進んでいる。
そのほか、飲食業や小売業などの店舗においては、ビデオ・Web会議システムを活用した店舗運営指導や店舗間コミュニケーションの活性化など、コミュニケーションと接客品質向上に寄与するソリューションが採用されている。
また、ユーザー企業が業務効率化や省力化などを想定した働き方改革を行う場合、IT ソリューションの活用は不可欠である一方、働き方改革はオフィス環境整備やシステム導入だけに留まるものではなく、そうした課題は当該ユーザー企業の働き方や組織・人事制度などに関連するものも多く、IT ソリューション提供事業者にとって既存の事業領域を超えるケースが多いという。IT ソリューション提供事業者はユーザー企業の改革課題に対するコンサルティング能力に加え、オフィス家具・什器メーカー、ビデオ・Web 会議提供事業者、人材系事業者など、関連する外部事業者と連携した付加価値の高いソリューション提供を求められている。
現下、政府のテレワーク推進や残業時間上限の法制化などを背景に、こうしたワークスタイル変革(働き方改革)関連ビジネスには今後一層、多様な業界からの参入が見込まれる。また IT ソリューション提供事業者自身においても、自社の既存事業と相乗効果の高い外部事業者と連携・協力を行うことで、従来の事業の在り方を転換させるイノベーション実現の契機になるものと見込んでいる。
ワークスタイル変革ソリューション市場は、さまざまなソリューション・サービスや製品分野により構成されているが、このうち、特に働き方改革を要因として急速に拡大している分野として、VDI市場とビデオ・Web 会議市場について取り上げている。
シンクライアント・クライアント仮想化)の市場規模は、2015年度は425億円、2016年度には458億5000万円に達し、2020年度のシンクライアント市場規模は620億円まで拡大すると予測。働き方改革におけるテレワーク推進や情報セキュリティ堅牢性の向上を目的に、今後も市場拡大が想定されている。
さらに、ビデオ・Web 会議の国内市場規模は2015年度は472億円、2016年度には511億円に達し、2020年度には808億円に達すると予測している。多様なワークスタイルの実現が必要とされるなか、遠隔コミュニケーションを実現する同市場は、今後も引き続き需要の高まりが期待できるものだという。