富士通研究所は、過去に撮影されたCT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)画像データベースをAIで学習させ、立体的な広がりを持つ異常陰影の類似症例を検索する技術を開発したことを23日発表した。
従来、CT検査において、初期の肺がんのように一箇所に集中する異常陰影とは異なり、肺などの臓器全体に異常陰影が立体的に広がるような肺炎などの"びまん性肺疾患"のようなケースでは"立体的な類似性"を医師が時間をかけて改めて確認するために、時間を要していたが富士通研究所と中国北京市にある富士通研究開発中心有限公司が共同開発したAI活用の技術では、この時間を大幅に短縮できそうだ。
富士通研究所によると、このようなケースの類似症例を判断する際には、臓器内を末梢、中枢、上下左右と各領域に分けて、異常陰影の広がり方を医師が診ており、これと同様の推定をAIで実現しようとするものだ。具体的には、CT画像から異常陰影候補を機械学習で認識させ、肺を「中枢」と「末梢」の境界面を推定し、領域を分割する。次に上下方向の体軸に沿って、異常陰影候補の個数をヒストグラム化していくことで、異常陰影の立体的な広がりの特徴を抽出、類似条例の検索が可能になるという。
同技術を用いた国立大学法人広島大学大学院医歯薬保健学研究科放射線診断学研究室 粟井和夫教授との共同研究では、びまん性肺疾患のCT画像を用いて評価実験を行い、検索結果上位5件に医師が定めた正解が含まれる割合で、約85%の正解率で類似症例の検索ができたという。これは、手作業で文献などから似た症例を探すような場合に比べ大きく診療業務を効率化するもので、同研究所では最大約6分の1に短縮できる可能性があるとしている。
国立大学法人広島大学大学院医歯薬保健学研究科放射線診断学研究室の粟井和夫教授は、「今回、異常陰影の性状と立体的な分布が類似するCT画像の検索について可能性を示すことができたことは、医学的にも評価できます。今後、診断や治療が難しい症例において、類似するCT画像を検索することにより臨床的に有用な情報を医師に提示できる可能性があり、診療業務の効率化・精度の向上などが期待できます。また、近い将来、形態が類似した画像をグループ化して、それらのグループ内で共通の遺伝子異常がないかを調べることにより新しい疾患概念の提唱や、多数の臨床応用の可能性があり、今後、大いに期待される技術です。」とコメントを寄せている。
なお、富士通研究所では頭部や腹部、MRIや超音波など画像診断への応用、様々な症例におけるCT画像による実証実験を重ねソリューションへの実装を目指し、医療現場の業務効率化に貢献していく。