u-bloxは、車載向けLTE通信モジュールの新製品「TOBY-L4」シリーズを発表した。6月13日、スイス・タルウィル(Thalwil)の同社本社で開催された事業説明会では、同社セルラー製品管理部門ディレクターのStefano Moioli氏が、TOBY-L4についてのプレゼンテーションを行った。
TOBY-L4は、LTEをはじめ、UMTS/DC-HSPA+、GSMなどの移動通信方式に対応した通信モジュールである。音声通話に関しては、VoLTEおよびCSFB形式をサポートしている。LTE Cat.6対応であり、最大データレート300Mbpsとなっている。
モジュールのサイズは24.8mm×35.6mm×2.6mm。実装形式は超小型248ピンのランド・グリッド・アレイ(LGA)を採用。使用地域による無線通信方式の違いに対応して、北米向け、EMEA(欧州・中東・アフリカ)向け、アジア太平洋地域/ブラジル向け、中国向けの4タイプのモジュールがある。
Moioli氏は、TOBY-L4の特徴として「強力なCPU性能」を挙げる。具体的には、IntelのAtom X3 64bitクアッドコア・プロセッサを搭載しており、1万9000DMIPSの処理能力を実現している。これにより、リソース管理が重要となる複雑なアプリケーションにも対応できるとする。
ユーザーは、Linux/Yoctoの標準環境でのソフトウェア開発が可能。高度な演算性能とハードウェア仮想化機能を備えたことにより、ユーザー開発のソフトウェアを、幅広い統合通信プロトコルに従って安全に同一デバイス上で実行できるようになっている。
車載向けモジュールということなので、演算性能と並んで当然、安全性や堅牢性が重要視されている。安全性については、ハードウェア暗号化アクセラレータと真正乱数生成器が搭載され、セキュア・ブート機能とセキュア・アップデート機能がサポートされている。
堅牢性については、車載IC信頼性試験規格であるAEC-Q100の認証済みチップセットを使用していることを強調している。過酷な環境での使用を可能とするため、耐熱性・放熱性を強化し、温度範囲-40℃~+85℃での動作を保証。eCall(重大事故時の車両緊急通報システム)設定の場合には、+95℃の条件で2分以上動作可能としている。車両緊急通報システムについては、欧州eCallに加えて、ロシアのERA Glonassにも対応している。
TOBY-L4は同社のWi-FiモジュールやGNSSモジュールと容易に接続できるように設計されている。これらの要素の組み合わせによって、事故防止・安全運転支援システムや車両緊急通報、車載インフォテイメントなど、コネクテッドカーで使われるさまざまな無線通信をカバーできるとする。
プレゼンテーションでは、TOBY-L4に同社のマルチ無線通信モジュールEMMY-W1を組み合わせたソリューションが紹介されていた。EMMY-W1は、Wi-Fi802.11ac、Bluetooth BR/EDRおよびBluetooth Low Energy(BLE)に対応した車載向けの超小型無線通信モジュール。TOBY-L4にはEMMY-W1ドライバーがあらかじめ統合されており、LTE+Wi-FiといったアプリケーションをLinux環境で迅速かつ低リスクで開発できるという。
TOBY-L4はLTE Cat.6対応であるため、最大データレートは300Mbpsとなるが、これは帯域幅が最大(20MHz)の場合に実現できる値である。帯域幅がこれより小さい場合には、データレートも低速になってしまう。欧州などでは、LTEの帯域が5MHz、10MHzといった小ブロックごとに通信事業者間のオークションにかけられているため、帯域が断片化し、最大データレートを達成できないという問題がある。これを解決する技術がキャリアアグリゲーション(CA)であり、TOBY-L4もCA機能に対応している。CA機能によって帯域内または帯域間で断片化した帯域幅を集約することでデータレートの高速化が可能になる。たとえば帯域幅10MHzでデータレート150Mbpsしか出せない場合、CA機能によって10MHz帯域幅2つを合わせることで2倍のデータレート300Mbpsを確保できる。Moioli氏は「高品質な車載通信の提供には、LTE Cat.6、LTE Advanced、CAの組み合わせが必須」と強調していた。
なお、無線通信方式についてはLTEの次の世代となる5G(第5世代移動通信システム)の規格化も進められており、2020年頃から導入が始まるとみられている。同社でも5G対応の製品開発を準備しており、Moioli氏は「市場への製品展開は2022年頃を想定している」と話していた。