富山大学大学院医学薬学研究部(医学)免疫学講座、岸裕幸准教授、浜名洋特命助教、村口篤名誉教授らの研究グループは、広島大学原爆放射線医科学研究所の川瀬孝和助教、一戸辰夫教授らとの共同研究で、ウイルスに対して高い免疫応答を示すCD8陽性T細胞は、ウイルスを認識するために、異なる個人の間で共通のT細胞レセプター(共有TCR)を利用していることを明らかにした。また、このような「共有TCR」は、抗ウイルス長期免疫記憶を担う「幹細胞様メモリーT細胞」において特に高い頻度で利用されているという。

T細胞は、病原体が感染した細胞やがん細胞などを攻撃して体から取り除く白血球の仲間で、これらの細胞を認識するため、TCRと呼ばれる分子を細胞1個あたりに1種類持っている。ヒトの体内のT細胞が利用しているTCRは数千万種類にも及ぶと推測されているが、それらの中から特定の病原体を認識するTCRがどのように選ばれているかは未解明だ。現在、TCR遺伝子を細胞の外から導入したT細胞を作成し、がんやウイルス感染症の治療に利用する研究が活発に進められており、その有効性を向上させるために、高い免疫応答性を示すTCRを選び出す技術の開発が望まれている。

2人の人からT細胞を取り出し、さらにその中からウイルス特異的T細胞を集めてきた様子

ウイルス特異的T細胞が持つTCRは、個人個人で異なり、違う人からは同じTCRは見つけられないと考えられていた。今回、富山大の単一細胞解析技術と、広島大およびその共同研究機関による網羅的なTCR解析技術を組み合わせることにより、ウイルス反応性T細胞の中で高頻度に利用されているTCRほど、ウイルスに対して強い結合性を示すことを証明した。

さらに、健康な成人5名の血液中に存在するT細胞のTCR遺伝子配列を解析・比較したところ、ウイルス反応性T細胞の中で利用頻度が高いTCRは、ウイルス感染歴に関わらず、複数の個人間で共有されていることがわかった。血液中のT細胞のうち、このような「共有TCR」をもつ細胞は、「幹細胞様メモリーT細胞」と呼ばれる長期免疫記憶を担う細胞中に高頻度で見つかることが判明した。

今回の研究と同様の方法を用いれば、特定のウイルスやがんに対して反応するTCRを多数同定することが可能となる。しかし、共有TCRが常に優れた抗原反応性を示すかについてはまだ不明で、さらに検証を行っていく必要がある。同定された高機能TCRの遺伝子を患者のT細胞に効率よく導入する技術を開発することが可能になれば、感染症やがんに対する有効性の高いT細胞を用いた治療法の開発につながることが期待されるという。

本結果は、多数のT細胞の中から高い免疫防御機能をもつ細胞を選び出す手掛かりとなり、感染症やがんに対する免疫療法の臨床開発に貢献することが期待される。この研究成果は、2017年6月16日より英国科学雑誌「Scientic Reports」オンライン版に掲載されている。