近年、医薬品、農薬、液晶材料において、光学活性化合物は広く用いられ、その効率的な合成法の開発は極めて重要となっている。この光学活性化合物は、構造式は同じでも原子の立体配置が異なり、立体配置が異なると生体への作用も大きく異なる。そのため、有用な物質を選択的に合成できるような手法が必要とされている。
名古屋工業大学大学院工学研究科の中村修一准教授らは、さまざまな医薬品類の合成材料となり得る光学活性なアボリジン化合物に着目した。このアボリジンの合成法としてはこれまで、イミンからの合成、二重結合からの合成、光学活性なアミンからの合成法などがあったが、これらの合成法には、高価な不斉触媒、原料、稀金属を必要とするなどの欠点があった。そこで、より簡便かつ効率的な合成法の開発を目指し、アジリンに球核性反応剤を反応させることにより、高立体選択的にアジリジンを合成する手法を考察した。このように高立体選択的にアジリジンを合成する手法は世界で初めての成功例となる。
また、今回この反応を可能にするために、球核反応を加速化させる作用をもつ不斉触媒を新たに開発した。これまでにもあった種の触媒ではあるが、この構造をもつ触媒は初めてだという。これにより光学活性なアジリジン化合物を合成することに成功した。
この反応によって合成したアジリジン化合物により、医薬品類の効率的合成手法の開発が期待される。また、このアジリジン化合物をさまざまな反応剤と反応させることで、医薬品に多く含まれているアミン類への誘導も可能なため、より多くの医薬品や農薬、液晶材料開発への展開も期待される。