富山大学大学院医学薬学研究部(医学)病態・病理学講座の山本助教、笹原教授らは、血管内皮細胞と共に脳血管を構成するペリサイトが、血球系細胞である成熟したマクロファージ由来であることを突き止めたと発表した。この研究結果は、6月20日18時に英国科学雑誌「Scientific Report」オンライン版に掲載される。
ペリサイトは血管内皮細胞と共に血管を構成しており、ペリサイト由来の分子シグナルが血管内皮細胞に作用し成熟した安定な欠陥が構築されると考えられている。脳は特に血管周囲に存在するペリサイトが多い組織であるとされ、安定で成熟した血管の存在が脳機能に不可欠であると考えられている。
これまでに、ペリサイトの由来に関する研究がなされてきたが、ペリサイトの起源については未解明な部分が多かった。本研究では、マウス脳発生初期において、脳血管発生部位の観察を詳細に行った。その結果、従来知られている血管をガイドとして遊走してくるペリサイト集団とは異なる、血球系細胞であるマクロファージ由来の新規ペリサイト亜集団を発見した。
それらのマクロファージは、脳血管近傍に浸潤した時点では、アポトーシスを起こした細胞を貪食する成熟したマクロファージであるが、脳血管に付着した時点からtransdifferentiation(分化転換、全く異なる機能を有する細胞に変化すること)し、ペリサイトになることがin virto、ex vivoの実験で明らかとなった。
また、in vivoの実験では、生まれつきマクロファージがいないマウスにおいて、神経発生期の脳血管周囲では、ペリサイトが優位に減少していることが明らかとなった。さらに、心臓が動かないマウス胎仔を用いた結果、心臓が鼓動しないためにマウス胎仔内には血球細胞がみられないことに伴い、ペリサイトに分化するマクロファージが存在せず、脳血管周囲のペリサイトも確認されなかった。また、胎仔期の主な造血器官である卵黄嚢からマクロファージ系細胞を分画し、in vitroでペリサイトに分化させる実験を試みた結果、これらのペリサイトに分化するマクロファージの由来は卵黄嚢であることが明らかとなった。
以上の結果から、卵黄嚢由来の成熟マクロファージ細胞が脳血管周囲に遊走し、transdifferentiationの後にペリサイトの亜集団を構成することが明らかとなった。ペリサイトは血管再生医療分野では、安定な成熟血管を作成するために注目されており、さらに腫瘍血管の構成要素でもあるため治療薬のターゲットとして重要視されている。本研究の結果明らかとなったマクロファージ由来ペリサイトが、それら分野における新たな創薬ターゲットとなると考えられる。
なお、本研究は富山大学 免疫バイオ・創薬探索研究講座および第一内科学講座、国立長寿医療研究センター メディカルゲノムセンター、熊本大学 表現型解析分野などとの共同研究の成果である。また、文部科学省新学術領域研究(血管-神経ワイヤリングにおける介在細胞の役割と EMP-神経幹細胞間生物活性の解析, 課題番号: JP23122506)およびJSPS 基盤研究 C (神経幹細胞の血管性 niche の解明および血管-神経相互作用物質の研究, 課題番号: JP26460360)による支援を受けて実施されたものである。