北海道大学は、同大学大学院工学研究院の大利徹教授らの研究グループが、食用植物の病原菌であるキサントモナス属細菌は、グルタミン酸ラセマーゼ遺伝子を持たないことを見出し、新規生合成酵素・経路を利用することを明らかにしたと発表した。この成果は、米国の化学系ジャーナル「Journal of the American Chemical Society」で公開された。
新規な一次代謝経路の発見は,生命現象の解明という学術面のみならず、医薬品や農薬開発のための新たな分子標的となり得る。微生物の構造維持に不可欠な細胞壁はD-グルタミン酸を含んでおり、研究グループはその生合成に着目。D-グルタミン酸はグルタミン酸ラセマーゼにより供給されるのが一般的だが、さまざまな微生物のゲノム情報を解析した結果、食用植物の病原菌である「イネ白葉枯病菌」(Xanthomonas oryzae)は、グルタミン酸ラセマーゼ遺伝子を持たないことを見出した。
研究グループは、その生合成経路の解明すべく、D-グルタミン酸を合成できない大腸菌を宿主として、その栄養要求性を相補する遺伝子をイネ白葉枯病菌に探索し詳細に検討した。その結果、通常UDP-MurNAc-L-アラニンには D-グルタミン酸が結合するのに対し、イネ白葉枯病菌はUDP-MurNAc-L-アラニンに L-グルタミン酸が結合した後、末端のL-グルタミン酸がD-グルタミン酸にエピメリ化(異性化)される新規生合成経路を利用することを解明した。
また、多くの微生物は、グルタミン酸ラセマーゼで D-グルタミン酸を供給するのに対し、食用植物の病原菌キサントモナス属細菌、柑橘類の病原菌キシレラ属細菌、院内感染菌であるステノトロホモナス属細菌などは、今回明らかにされた新規経路を利用することから、これらの病原微生物に特化した抗菌剤の開発が期待されるとしている。