名古屋大学は、低温プラズマをイチゴ苗の生育とともに処理すると、抗酸化値の高い物質を通常の生育法において栽培したイチゴ果実よりも多量に蓄積することを見出したと発表した。
同研究は、名古屋大学プラズマ医療科学国際イノベーションセンターの堀勝センター長・教授らの研究グループによるもの。低温プラズマは、近年世界中で医療応用研究が活発に行われているが、農業分野へ応用するための研究もこの数年急速に進められており、苗の生育促進や収穫量の増加、病原菌の殺菌、食品の保持など、様々な効果が報告され、農業分野において低温プラズマが新しい技術として実装される可能性が示されている。
一般に、植物はさまざまな環境からのストレスに対して耐性物質を合成しており、低温プラズマの照射は大気中の酸素や窒素が活性化されて照射されるため、活性酸素種や活性窒素種のストレスと言い換えられる。同研究では、植物体にとって適度な酸化ストレスをかけることで、抗酸化値の高い機能性物質を蓄積した果実を作出することが可能ではないかと考えたということだ。
同研究では、幸田町のイチゴ農家から提供された20cm×20mの高設棚が4列設置されたビニルハウスに、低温プラズマ装置類を導入して実証試験が行われた。イチゴ苗(品種:紅ほっぺ)の定植や栽培に関する作業は、通常と同じ手法で農園長が実施。イチゴ苗に自動運転でプラズマを照射するためのプラズマ照射装置と、プラズマ照射溶液(Plasma-activated Lactec, PAL)を自動で生成する装置を設置し、その場で調製したPALを蒸留水で希釈してイチゴ苗に散水した。ビニルハウス内は「プラズマ直接照射区」、「PAL散水処理区」およびそれらの対照として「対照区」、「蒸留水散水処理区」、「未照射溶液散水処理区」に分け、苗を定植した9月から2月末までの期間、通常の栽培法に加えて低温プラズマ処理が定期的に行われた。
同研究チームは、果実中の抗酸化成分の変化を調査するため、それぞれの処理区から収穫した果実の総アントシアニン含量を分析した。プラズマ直接照射区の果実では、対照区の果実と比較してアントシアニンが約25%有意に増加した。PAL(+)および PAL(++)処理区より収穫した果実では、同様の未照射溶液(+)および未照射溶液(++)処理区の果実と比較してそれぞれ約40%、52%増加した(蒸留水処理区と比較しても約12%、19%有意に増加した)。これらの結果は、プラズマ直接照射とPALによる処理いずれにおいても、イチゴ苗に対してある種の刺激、特に活性酸素種による酸化ストレスとなり、その防除のために抗酸化値の高いアントシアニンを果実中に蓄積したと考えられるという。
また、同処理による残留毒性に対する安全性の確認も行われた。低温プラズマの照射によって、発生する様々な活性種(活性酸素・活性窒素種)、電子、イオン、オゾンのうち化学的に安定で果実への残留が考えられる過酸化水素についての果実中への蓄積量を分析したところ、対照の果実の蓄積量と等量であることが示された。すなわち、プラズマ処理を行い生産されたイチゴ果実は安全であることが確認されたということだ。
同研究によって、低温プラズマの処理により果実の付加価値を高められることが示された。今後は、最適な処理条件のさらなる検討とともに、低温プラズマ処理による植物体内での作用機序を解明することが必要と考えられる。また、実装化に向け低温プラズマ装置の改良が必要と考えられるということだ。