横浜市立大学(横市大)は6月15日、ヒトiPS細胞からミニ肝臓の形成過程で生じる多細胞間の相互作用を解析し、ヒトの肝臓発生に重要かつ複雑な分子メカニズムを明らかにしたと発表した。
同成果は、横浜市立大学学術院医学群臓器再生医学 関根圭輔助教、武部貴則准教授、谷口英樹教授らの研究グループによるもので、6月17日付けの英国科学誌「Nature」オンライン版に掲載された。
ヒト臓器の発生過程においては、臓器を構成する異なる細胞間における相互作用が、機能を発揮するうえで重要な役割を担うと考えられている。しかしながら、ヒト臓器の発生・成熟における細胞間相互作用を明らかにするための有効なツールが存在しないために、これまでその実体はほとんど明らかになっていなかった。
横浜市立大学の研究グループはこれまでに、ヒトiPS細胞から分化誘導した肝内胚葉細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞を最適な比率・培養液・細胞外基質上で培養することにより、肝臓の基となる立体的な肝臓の原基(ミニ肝臓)をin vitro培養条件下で創出する細胞培養技術を確立していた。ミニ肝臓は、生体内における臓器発生の初期段階で形成される肝臓に極めて類似しており、ヒト臓器発生現象に迫るための有効なツールと考えられている。
今回の研究では、細胞ひとつひとつを対象として、すべての遺伝子発現を次世代シークエンサーにより評価するシングルセルRNAシークエンスという手法を用いて、立体的なミニ肝臓でみられる複数の細胞種間の相互作用を解析。さらに、ミニ肝臓の材料となる各種の細胞およびこれらの細胞から創出されたミニ肝臓について、1細胞レベルで全遺伝子の発現情報を取得し、総計1949細胞に関する遺伝子の発現情報を、バイオインフォマティクス技術を駆使して視覚的に理解できるように分類・整理して解析した。
この結果、ヒトiPS細胞から平面培養により分化誘導した肝細胞と比べて、三次元培養した立体的なミニ肝臓は、生体内のヒト肝細胞により近い状態に分化することが明らかになった。また、これらの解析により、ヒト肝臓の発生・成熟過程で起こるダイナミックな細胞間相互作用を解析することに成功した。
ミニ肝臓の品質評価という観点においては、ヒトiPS細胞から肝細胞を平面的に分化誘導した各分化段階での細胞群のなかには、未分化iPS細胞の残存はみられなかった。また、ヒトiPS細胞が成熟肝細胞に成熟化するにつれて、各々の細胞間のバラツキが増すことが明らかになった。さらに、成熟肝細胞のなかには分化過程から逸脱した細胞も一部存在することが明らかになった。その一方で、ミニ肝臓を作製するための細胞材料としている、ヒトiPS細胞由来の胚体内胚葉細胞、肝内胚葉細胞については、当初の予測よりも細胞間のバラツキが極めて少ないことが明らかとなった。
これらのことから、同研究グループは、シングルセルRNAシークエンス法は再生医療に用いる細胞等の品質評価に極めて有効な基盤技術になると説明している。今後、解析対象とする細胞数を著明に増加させるための手法、解析時間を短縮するための手法の開発などを進めていきたい考えだ。