東北大学、八戸高等工業専門学校、国際レスキューシステム研究機構らのグループは6月12日、空気噴射により頭部を浮上させることが可能なヘビ型ロボット(索状ロボット)を発表、東北大学・青葉山キャンパスにて報道陣に公開した。頭部を浮上させることで、瓦礫の踏破性能が向上するとともに、周囲を広く見渡すことも可能になる。
このロボットは、内閣府・革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のタフ・ロボティクス・チャレンジ(TRC)により開発されたもの。ヘビ型ロボット自体は以前から研究されているが、空気の噴射で浮上するタイプは世界初。学生のアイデアから生まれたとのことで、それから3年ほどかけて試作を重ね、今回、初めての公開に漕ぎ着けた。
TRCは、実際の災害現場に投入できるようなタフなロボットの開発を進めている。今回開発したロボットも用途としては主に災害対応を想定しており、倒壊した家屋の奥深くまで入り込み、生存者の捜索などに活用することが考えられている。
細いヘビ型ロボットは、狭い隙間しかなくても瓦礫の奥まで進めるというメリットがある。同グループが開発しているヘビ型ロボット「能動スコープカメラ」は、まだ救助目的では使われていないものの、これまで、熊本大地震や福島第一原発などでの調査に活用されてきたという実績がある。
ただし、従来の能動スコープカメラには、「運動能力が足りない」(東北大学・田所諭教授)という弱点があった。大きな障害物は乗り越えられないため、今までは上からロボットを内部に投入して、下に進んでいくことしかできなかった。
しかし現場によっては、横側からロボットを入れたいときもある。このような場合に有効なのが、今回開発した空気浮上式である。
能動スコープカメラは、周囲の繊毛を振動させることで、前方への推進力を得ている。新型機は、頭部のノズルから斜め後方に空気を噴射して浮上するため、頭部が障害物に乗り上げてからは、これが胴体を引っ張り上げる力になる。従来は、5cm程度の段差でも厳しかったが、新型機だと20cmくらいでも問題ないという。
新型機の大きさは、直径約50mm、全長約8m。ボディは主にプラスチックで作られており、重さ約3kgと非常に軽くできている(これとは別に、空気を根元から送り込むコンプレッサーが必要)。先端部にはLEDとカメラが搭載されており、内部の様子を映像で確認することが可能だ。
また頭部は内蔵した小型モーターにより、ロール軸周りに回転できるようになっている。これにより、空気噴射の向きを左右に変え、頭部を動かし、進行方向を変えられるようになっている。従来、先端の向きを90度変えるのには26秒もかかっていたが、新型機ではわずか1.6秒と、16倍も高速になった。
「能動スコープカメラ」による倒壊家屋の走行デモ
「能動スコープカメラ」によるコンクリート瓦礫の走行デモ
空気浮上式の開発にあたり、最初に問題となったのは、どうやって安定して頭部を浮上させるかということだ。普通に空気を噴射するだけだと、頭部が後ろに仰け反ってしまい安定しない。
この問題を解決するために、新型機では、頭部を持ち上げたときでも、頭部の向きは地面に対して一定になるような仕組みを導入。浮上時でも空気噴射の方向は変わらないので、姿勢を安定することができる。これは内部のワイヤーにより、機械的に実現した。モーターを使っても可能であるが、この方が軽量化には有利だ。
また浮上時には、上下方向だけでなく、左右方向に対しても安定させる必要がある。そのために、頭部には加速度・角速度センサを搭載。左右へのブレを検知すると、空気噴射の方向を変えて打ち消すことで、左右へのブレを抑えている。
搭載カメラからの映像は、こちらの公式動画で見ることができる
今回開発したロボットは、まだ空気噴射による浮上機能を実装しただけの試作機だが、今後、実用化に向け、耐久性の向上、防塵・防水への対応、音声収集機能の追加、VSLAM(Visual Simultaneous Localization and Mapping)技術の実装など、さまざまな改良を行っていく予定だ。東北大学・大学院情報科学研究科の田所諭教授は、「3年後には現場で使えるようにしたい」と抱負を述べた。