富士経済は、医療ビッグデータの整備や、生体センサーをはじめとした関連技術の発展により、今後大幅な拡大が期待される、医療分野におけるIoT・AI関連の国内市場について調査し、報告をまとめた。調査は、同社の専門調査員による参入企業および関連企業・団体などへのヒヤリングおよび関連文献調査、社内データべースを併用して行った。調査期間は2017年1月から3月。
この報告書では、通信機能搭載型人工臓器5品目、治療・モニタリング機器・システム10品目、その他医療機関連IoTシステム3品目、また、医療分野におけるAI関連市場(AI技術活用システム3品目)について、現状の市場を調査し将来を予測した。
政府は第4次産業革命における変革のコア技術としてIoT、ビッグデータ、AI、ロボット・センサーに重点を置いており、経済の成長ドライバーのひとつとなる医療・介護・健康関連産業の育成を図る方針を打ち出している。特に「日本再興戦略」ではIoT・AIの研究開発の推進や医療・健康分野への応用および産業化が目標に掲げられており、それに伴い、医薬品、医療機器、医療ITなどの医療ビジネスに携わるさまざまな事業者がIoT・AIに関連した事業展開を進めている。
2014年11月の「医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律」(医薬品医療機器等法)の施行により、スマートデバイスやスマートフォンのアプリケーションなどが医療機器として承認を取得できるようになったことでIoT関連機器・システム市場拡大の環境が整った。在宅医療や遠隔医療の拡大、医師不足への対応などにより、IoT技術を活用した医療機器・システムの需要は増加しており、今後の市場拡大が予想される。2016年時点では、IoT化が進んでいる医療機器・システムは限られているが、今後はさまざまな機器IoT対応が進むとみられ、2025年の市場は2016年比2.2倍の1,685億円と予測している。
次に、AI創薬システム、製薬企業向け営業支援AIシステム、診断支援システム・類似症例検索システムを対象とした市場について調査を行った。
AI創薬システムは、製薬企業内の実験結果に加えレセプトデータやDPCデータ、論文データなどを含めたビッグデータを、AIを活用した分析により新たな創薬に結びつけるシステムだ。化合物選定などスクリーニング作業の効率化だけでなく、開発の効率化や副作用の予測などさまざまな応用が試みられている。医薬編企業やバイオベンチャーを中心に普及が始まった段階であるが、創薬技術向上による競争力の維持は製薬企業の共通課題であるため、その対応策として今後需要が拡大し2025年の市場は70億円と予測する。
製薬企業向け営業支援AIシステムは、製薬企業内の営業データや顧客データおよび、医療施設の動向や地域情報などのビッグデータをAIにより複合的に分析し、MRの営業活動の最適化などを図るシステムだ。MR向けに、医師に合わせた情報提供の内容や方法、提案などを行うシステムが中心。病院の訪問規制などにより、MRの医師への訪問時間が短くなっているため、MRの人数を減らした場合でも医師への効率的な情報提供が可能な同システムの需要は高まっている。現状は一部の大手医薬品企業による選考採用に留まるが、先行企業による成功事例が浸透すれば一気に普及が進む可能性もあるという。また、同システムが医療情報のプラットフォームの役割を担うことで、AI精度の向上や用途の広がりも想定され、今後の伸びに寄与するとみられる。
診断支援システム・類似症例検索システムは、症例データや電子カルテデータ、その他論文データや添付文書などのデータに基づき、AI分析により医師の診断や治療方針決定の支援を行うシステムである。現状、需要は限定的であるが、今後、システム用途の広がりや精度の改善に加え、AIによる診断や治療の支援についても診療報酬の対象となるとみられ、それに伴う新製品の発売などにより、市場の活性化が期待される。