産業技術総合研究所(産総研)は6日、同所製造技術研究部門トリリオンセンサ研究グループの菊永和也主任研究員、寺崎正研究グループ長が、対象物の静電気を読み取り、画像として可視化するスキャナーを開発したことを発表した。
近年、製造業で注目されているIoTを活用した生産システム「スマートマニュファクチャリング」では、センサーが取得した膨大な情報をもとに、高度な情報処理技術を活用することで予防メンテナンスや品質管理、プロセスの自動化が進められている。しかし、数値化できないパラメーターがあると最適化できない。例えば、静電気は大きな生産阻害要因のひとつであり不規則に発生することから、定量化が困難なパラメーターである。
エレクトロニクス製品の絶縁材料は静電気を帯びやすく、局所的な摩擦や剥離などによって帯電電荷がその表面に不均一に形成され、そうした商品は搬送工程で予測不可能な挙動を示すといった問題を複雑化させている。
これまで静電気測定で使われてきた市販の非接触式表面電位センサーでは、1mmの空間分解能での測定は困難で、静電気分布を計測するには1点ずつセンサーを動かして測定しなければならず、測定の高速化が困難であった。製造現場での静電気を定量化し低減するためには、短時間で詳細な静電気分布を測定する必要がある。
産総研が実施している材料・加工プロセス・設計・計測評価を一体としたものづくりに関連する研究開発では、その計測評価のひとつとして音波を用いた静電気計測技術の開発に取り組んできた。同技術は非近接で広範囲の静電気分布を測定できるが、対象物が柔らかい材料に限定されること、また空間分解能が低いという課題があった。そこで今回、対象物の剛性にかかわらず詳細な静電気を計測評価する技術の開発を目指し、非破壊で短時間に静電気分布を高空間分解能で可視化するシステムを開発した。
開発された静電気スキャナーは、30個の表面電位センサー(0.7mm×0.7mm)が1mm間隔で一列に配列されたライン型アレイセンサー、振動発生器、信号処理システム、自動ステージで構成されている。ライン型アレイセンサーを精密に均一な振動をさせ、平行板電極間の静電容量の変化を各センサーで検出した微小な信号を並列で処理して、30箇所の表面電位を同時測定することが可能となっている。さらに、配列(Y軸)と直交した軸(X軸)方向に沿って対象物を速度15mm/sで走査し、各センサーで測定した表面電位と対象物の空間座標から、対象物の静電気分布を空間分解能1mmの画像として可視化できるという。
また、塩化ビニルを「AIST」の文字に沿ってガラスに接触させたあと、開発された静電気スキャナーで詳細な静電気分布を可視化したところ、「AIST」の文字に沿って接触させた部分だけが帯電している様子を観測できたという。その後、市販のイオナイザーで除電処理を行ったあと、再び静電気スキャナーで測定したところ、「AIST」の文字の帯電がなくなり、除電効果についても簡単に評価できた。
なお、静電気スキャナーは製造現場における静電気問題の低減や生産性向上に貢献し、高品質で付加価値の高い製品を量産化するための評価・解析ツールとしても活用されることが期待されるほか、コピー機やフレキシブルプリント回路基板などの欠陥検出や故障判断などの用途も期待されるとしている。
今後は、企業からの依頼・受託などを通じて、ガラス、プリント基板、フィルム、樹脂、セラミックスなどの対象物について静電気評価試験を開始するのに加え、より高空間分解能化、大面積、高速化した静電気スキャナーを開発し、数年内の実用化を目指すということだ。