IoT(モノのインターネット)が次の1年でさらに成長を遂げるであろうことは、誰もが予想することでしょう。このように考えるとき、IoTのさらなる実用化に向けた変化を示すいくつかの徴候に気付くかもしれません。IoTの導入効果が高まり、さらに拡大していくことを期待させるいくつかのトレンドをここに示したいと思います。

1. 高度な防衛

犯罪者は常に企業ネットワークに侵入するための新たな経路を探し求めています。IoTウェアラブルやスマートコーヒーメーカーなどの消費家電が職場に導入されることに伴い、多くの企業はDDoSに対する防御以上のものが必要であることに気付いています。それにもかかわらず、IoT機器に対する脆弱性スキャンの爆発的増加とともに、ハッカーのターゲットとなるIoTシステムの数が拡大することは避けられないと思われます。

企業や組織には、このような脅威の進化を踏まえ、自らのセキュリティポリシーについて見直すことが求められます。具体的には、企業が製品ライフサイクルの最初の段階からセキュリティソリューションを含めることを検討すべきことを意味します。

2. Low-Power Wide-Area(LPWA)によるカバレッジ

IoTのワイヤレスネットワークは、多様な接続機器のニーズを満たすべく、マルチネットワーク戦略にもとづいて進化しています。ライセンス・マネージされた周波数帯域でのLow-Power Wide-Area(LPWA) 3GPP規格テクノロジーであるLTE-Mは、次世代のIoT機器に柔軟な機能を提供するため、ライバルであるLPWAベースのソリューションを上回るスピードで展開されています。

LTE-Mは帯域幅とカバレッジのバランスをとりながら、ほかのLPWAテクノロジーよりも幅広いIoTアプリケーションに対応すると同時に、低コストでエネルギー効率に優れた機器をサポートすることができます。世界の大手通信事業者の間では、グローバルなカバレッジを迅速に提供するためにLTE-Mサービスの採用が進んでいます。これにより真のモビリティと建物内や地下への普及が進み、セキュリティ向上、キャリアグレードの機能、およびスケールメリットが実現します。

AT&TのLTE-Mネットワークは米国では2017年第2四半期、メキシコでは年末までに導入が開始される予定です。これにより、広範囲の新しいIoTサービスも近くサポートされるようになることが期待されています。このようなサービスは、スマート化した都市からアラームやセキュリティのモニタリング、さらには改良されたウェアラブルやフォームファクターにまで及びます。また、LTE-Mはほかのさまざまなワイヤレス事業者にもサポートされ、その結果として低消費電力、規格ベースのテクノロジーへのグローバルなサポートが実現します。

3. 政府と規制の変化

IoTに対する取り組みは各地域の規制当局ごとに異なり、柔軟に取り組んでいるところもあれば、それほどでもないところもあります。主な課題にはライセンス付与、セキュリティ、およびプライバシーが挙げられます。IoTが持つ複雑さのため、通信事業者を管轄する当局やデータ保護に関わる機関などとの調整が必要とされています。

4. 企業と消費者の垂直ソリューション

IoTが多くの業務分野へと拡大することに伴い、B2B(企業間取引)とB2C(企業一般消費者間取引)との境界が曖昧になってきています。実際には、企業と産業IoTソリューションの多くはB2B2Cになってきており、例えばフリート管理者などのビジネスエンドユーザーがIoT機器の使用を求められ、このような機器はビジネスシステムにも接続されています。また、企業が自社の社員により提供されるサービスの効率や社員の安全性を高めるため、ビジネスゲートウェイを通じてデータを集約するウェアラブル機器を社員に装着させることも夢物語ではありません。従来のIoTアプリケーションを超えた、洗練されたエクスペリエンス主導の垂直ソリューションが登場してきています。

AT&Tはフリートソリューション、資産管理、スマートシティ、およびヘルスケアに注力し、同時に22を超えるグローバルな自動車ブランドと協力している、コネクテッドカー分野におけるリーダーとしての位置付けを継続的に発展させています。

さらに、さまざまな産業分野の企業がIoT導入を加速し、新しい実践的な機能の可能性を探ることを支援する、新たな世代のプロフェッショナルサービスも生まれています。企業は今や、資産の状態の変化を予測することで機器の停止を回避・管理し、それにより対投資効果を高めるための手段を手に入れるようになってきています。

5. 膨大なデータが押し寄せる- 人工知能と機械学習

IoTが提供する可能性は無限ですが、課題もあります。すなわち、IoTからすでに生成されている膨大なパフォーマンス関連のデータと情報を整理し、分析するための手段をどのようにして見つけ出すか、およびそれ以降に登場するであろうものに対してどのように準備するかです。

このような状況に対して本領を発揮するのが、ビッグデータアナリティクスと機械学習です。機械学習は人工知能(AI)の応用であり、データを使ってどのようなルールに従うべきかを判断する能力を機械に与えることを目指すものです。これらの技術は、データ分析の遅延や不正確性により生じる、コネクテッドカー、医療機器、あるいは産業用機器の異常動作などのIoT活用リスクを回避することに役立ちます。

機械学習はSoftware-Defined Networking(SDN:ソフトウェア定義ネットワーキング)と組み合わせることによってさらに強力になります。AIにより、ソフトウェアベースのネットワークの信頼性、回復力、およびセキュリティが、専用ハードウェアに依存する従来のネットワークを超えた水準にまで高まります。

AT&Tは2020年までに自社のネットワークの75%をソフトウェアベースににする取り組みを実施しており、コネクテッドカープログラムは仮想化される最初のネットワークサービスの1つです。AT&TのグローバルなSoftware-Definedアーキテクチャ上に機械学習の技術を取り入れることにより、自動運転サービスなどIoTに基づく最も要求の厳しいテクノロジーも実現可能となります。

テクノロジーは急速な進化を続け、IoTは物理世界のものをデジタル化し続け、私たちの暮らしや仕事を変え続けます。私たちはまだ可能性の氷山の一角を見ているに過ぎません。皆さんは、変化を受け入れる準備はできていますか?

著者プロフィール

サンディ・ヴェルマ

2001年に米国でAT&Tに入社し、デジタルへの移行、3Gおよび4G の立ち上げ、スマートフォンの台頭、そしてコネクテッドデバイスの時代といった、モバイルソリューション開発の最前線に立つ。 米国での戦略マネジメント・エグゼクティブとしての経験を、クラウド、VPN、ネットワークセキュリティソリューションからなる、モバイルと有線を統合する製品革新に生かす。米国では、ジョージア州アトランタでゼネラルマネジャーとして、直属の部下550人以上を抱え、大規模なP&Lを担当し、モバイルオペレーションを統括。 現在は香港を拠点にAT&T アジア太平洋地域 IoT戦略担当 シニアディレクターを務める。