千葉大学は、同大学 社会精神保健教育研究センターの橋本謙二教授(神経科学)、張継春特任助教(現:中国)らの研究グループが、うつ病の新しい治療法として、炎症性サイトカインの一つであるインターロイキン6(IL-6)受容体の阻害が有効であることを明らかにしたことを発表した。この成果は5月30日、オープンアクセス雑誌「Translational Psychiatry」に掲載された。

社会的敗北ストレスモデルにおけるIL-6受容体抗体の抗うつ効果(出所:論文:Translational Psychiatry)

代表的な精神疾患である「うつ病」は、日本では100人に3人~7人が経験したことがあるという調査報告がある。また、世界中では3.2億人がうつ病に罹患し、年間80万人が自ら命を絶っているという。

現在、薬物療法として抗うつ薬などが用いられているが、既存の抗うつ薬が効かない治療抵抗性の患者が約30%存在するという。うつ病は、ストレスなどが発症の要因に関わっていることが知られているが、その詳細なメカニズムは未だ明らかになっていない。

今回、研究グループは、うつ病のモデル動物(社会的敗北ストレスモデル)を用い、IL-6シグナルを阻害する方法として、IL-6受容体抗体をマウスに静脈投与すると即効性の抗うつ効果を示し、また、うつ症状を示すマウス脳内における樹状突起スパイン密度の減少も改善したという。

一方、脳室内投与では抗うつ効果を示さず、さらに、IL-6受容体抗体は、うつ症状を示すマウスの腸内細菌叢の変化を改善することがわかったということだ。これらの知見は、末梢におけるIL-6受容体の阻害が、脳腸連関を介して抗うつ作用に関わっている可能性を示唆するとともに、近年提唱されているうつ病の炎症仮説を支持する成果となった。

なお、IL-6容体抗体は、関節リウマチの治療薬として世界中で用いられているため、血液中IL-6濃度の高い治療抵抗性うつ病患者に対しての、新しい治療薬として期待できるとしている。