東京大学(東大)は5月31日、走査型透過電子顕微鏡(STEM)法と独自開発の多分割型検出器により、金原子1個の内部に分布する電場の直接観察に成功したと発表した。
同成果は、東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構 柴田直哉准教授、関岳人特任研究員、幾原雄一教授らの研究グループによるもので、5月30日付の英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。
STEM法は、薄膜試料上で電子プローブを走査しながら、その各点からの透過散乱した電子を検出器で検出して拡大像を観察する電子顕微鏡法。電子プローブの大きさによってその分解能が決まり、現在では0.05nmの分解能が達成されている。電子プローブが原子によって散乱された信号を検出するため、原子そのものを可視化することができるが、さらにその先の原子内部の構造を電子顕微鏡で直接観察することは困難であると考えられてきた。
今回、同研究グループが開発した手法では、原子内部のプラスの電荷をもつ原子核とマイナスの電荷をもつ電子雲とのあいだの電場によって影響をうけた電子線の進行方向の変化を分割型検出器で検出することにより、原子内部にどのように電場が分布しているのかを直接観察することができる。同研究グループは同手法によって、原子内部のプラスの原子核からマイナスの電子雲に向かって電場が湧き出している様子を捉えることに成功している。
チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)結晶中の原子電場観察例。左が通常の STEMによる原子観察。右が今回の手法により、原子内部の電場を可視化した像。像中のカラーは電場の向きと強さを表している。凡例(カラー表示と電場ベクトルの関係)と比較すると、原子中央部の原子核から電場が放射状に発生していることが実験的に可視化できている (出所:東大Webサイト) |
同研究グループは今回の成果について、単一原子の内部構造の可視化により、さまざまな分野におけるナノテクノロジー研究開発が格段に向上することが期待されると説明している。