東京大学は、同大学大学院理学系研究科・理学部 生物科学専攻の田中若奈助教と平野博之教授の研究グループが、イネの花や花序(穂)の形作りに重要な3つの遺伝子(TOB1、TOB2、TOB3)の機能を解明し、これらが花器官の正常な発生だけではなく、花メリステム(分裂組織)の形成にも必須であることが明らかになったと発表した。この成果は5月29日、「New Phytologist」オンライン版に掲載された。
イネの花は、小穂(しょうすい)といわれる特殊な構造の中につくられ、稲穂はこの小穂が集まったもので、植物学的には花序と呼ばれている。花の中で受粉が起こると種子が実り、米の原料となる。すなわち、花が正常に作られることが米の生産にとって重要となっている。
研究グループは、イネの花や花序の形成に重要なはたらきをする3つのTOB遺伝子(TOB1、TOB2、TOB3)に着目し、その機能を解析してきた。その結果、ひとつまたはふたつのTOB遺伝子の機能を欠損または低下させると、花器官の形や数が異常となること、3つ遺伝子の機能をほとんど喪失させると花の異常に加え花の数が大きく減少することが判明した。後者の極端な場合は花が全く形成されなくなり、花序は穂軸とブランチのみになってしまったという。
花の各器官は未分化細胞の集団である花メリステムから分化するが、この解析の結果から、3つのTOB遺伝子は互いに類似したはたらきをしており、花器官を作るだけでなく、花メリステムそのものの形成にも不可欠であることが明らかになった。
3つのTOB遺伝子は転写制御に関わるタンパク質を作る情報を持っており、その発現場所を調べたところ、メリステムでは全く発現していないこと、花器官や苞葉など、メリステムの近傍に存在する器官で発現していることが判明した。
また、3つのTOB遺伝子の機能が大きく低下したイネは、花メリステム自身の形成が阻害されていることが明らかになった。これは、ブランチメリステムの機能が損なわれていることが原因であると考えられるという。TOB遺伝子は何らかのシグナルを介して近傍器官からメリステムに作用し、そのはたらきを正常に維持する機能を担っていると考えられるとしている。
これまで知られている花の発生に関わる遺伝子は、主に花メリステムで発現してその場で機能していましたが、TOB遺伝子は花メリステムでは全く発現せず、その近傍の器官で発現していたという。すなわち、TOB遺伝子は、近傍の器官から花メリステムに働きかけ、その活性を正常に維持するために必要であると推定されるとし、花の発生にユニークな作用が働く、新しいタイプの遺伝子と考えられると説明している。