NTTコミュニケーション科学基礎研究所は6月1日と2日に、最新の研究成果を発表するイベント「オープンハウス2017」を京都で開催する。それに先立って開催された報道向けの内覧会に参加する機会を得たので、本稿ではその様子を紹介する。
同内覧会では京都で展示される29の技術のうち、7つが展示された。ここでは、その中から3つをピックアップして紹介しよう。
裸眼で見てもブレのない3D映像
従来、専用のメガネを装着することで立体的に見えていた3D映像は、裸眼で見ると映像がボケて見えるようになっていた。そのため、専用のメガネをかけた視聴者とメガネをかけていない視聴者が同時に楽しんだり、目の疲労に応じて2Dと3Dを切り替えたりすることが難しいという問題があった。
今回発表された新技術は、メガネをかけずに映像を見た際にもボケのないキレイな2D映像を見ることができるというもの。もちろん、メガネをかければ従来と同様に立体的な3D映像を視聴できる。
下の写真は従来の3D映像と新技術を使った3D映像の比較。従来のものは境界などがボケているが、新技術の2D映像はクリアに映っているように見えるのでメガネを外しても違和感なく視聴できる。
億単位の解を高速で求める
「敷き詰めかたをすべて見つけます」というデモでは、「厳密被覆問題」を高速で解く技術が紹介されていた。厳密被覆問題とは、ある盤面と複数のピースが与えられたときに、ピースで盤面を隙間なく埋める組み合わせをすべて求めること。難解かつ膨大な量の答えが導き出されるので、非常に時間のかかる問題なのだという。 今回紹介されている技術では、既存手法よりも1万倍高速で厳密被覆問題の解を導き出せるうえに、膨大な数の解をすべて圧縮して記憶しておくことができる。そのため、瞬時に解を求めるだけでなく、一度探索した答えは条件を指定するだけで、すぐに抽出できるという。
今回は3LDKの間取りについて、トイレや洗面所、寝室といったピースを敷き詰めていく厳密被覆問題のデモを行っていた。
すでに17億通り以上の解が導き出されている状態から、タブレット上で特定のパーツの場所を固定した組み合わせを検索。すると、一瞬のうちに500通りほどまでに絞り込まれた候補が表示された。
利用者の好みに合わせたマンションの間取りを設計する際や、無駄のない電子回路基板のモジュール配置によって消費電力を削減する際などに応用できるという。
少ないメモリ量で単語の意味を学習
自然言語の処理/理解に必須の技術「単語埋め込みベクトル」についてのデモでは、従来と同等の性能でメモリ量を約100分の1にまで抑えることのできる機械学習技術を紹介していた。
単語埋め込みベクトルとは、単語をベクトルで表現したもの。ベクトル間の距離と角度で関連性を表現し、関連性を演算することも可能だという。
今回は省メモリ化を実現することで、携帯端末などの計算リソースが限定的な環境でも利用可能になった。また、従来の単語埋め込みベクトルで問題だった結果の不確実性についても解消。毎回安定的に同じ結果を得られるので、利便性が高まったという。
ロボットと会話をする場合などに、同じ意味でも異なる言葉を使うと処理できなくなるといったような問題もなくなり、人間の自然な会話でも意味を推測し意思疎通ができるようになるという。
同社では、この技術を発展させて、人工知能関連システムのすべてに使われる基盤技術としての構築を目指しているという。
また、開催にあたり、NTTコミュニケーション科学基礎研究所 所長の前田英作氏が、「NTTにある12の研究組織のうち、我々の研究所は情報系の基礎研究を担っており、5年後10年後の将来を担う研究や現在の社会問題を解決するための研究を行っている」と同研究所の概要を紹介。そして今回のオープンハウスについて「さまざまな分野のデモが展示されるが、基礎科学と応用工学がブレンドされた研究として見てほしい」と参加者へメッセージを伝えた。
「オープンハウス2017」はNTT京阪奈ビルにて、6月1日の12:00~17:30と6月2日9:30~16:00の2日間にわたり開催される。入場無料で事前登録は不要だ。