理化学研究所(理研)と東京大学(東大)は5月24日、固体中で強く相互作用する相対論的電子の新しい相転移現象を発見したと発表した。
同成果は、理研創発物性科学研究センター強相関物性研究グループ 上田健太郎研修生(研究当時)、金子竜馬研修生(東京大学大学院工学系研究科大学院生)、十倉好紀グループディレクター(同教授)、強相関界面研究グループ 藤岡淳客員研究員(同講師)、強相関理論研究グループ 永長直人グループディレクター(同教授)、ソウル大学 ボン-ジュン・ヤン准教授らの研究グループによるもので、5月24日付の英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。
多くの遷移金属酸化物は、電子間の相互作用が強いために、電子が互いに反発して動くことができず絶縁体となる。これら強相関電子系と呼ばれる物質群では、電荷、スピン、軌道自由度が大きなエネルギースケールで作用し合っているため、圧力や磁場などの外部刺激によってさまざまな秩序相が現れることが知られている。
なかでも、パイロクロア型結晶構造を持つイリジウム酸化物は、磁気秩序したトポロジカル電子相の発現の可能性が理論的に予測されて以来、注目を集めている。しかしこれまでの研究では、試料合成が難しいため実験例が少なく、予測された電子相が実在するかどうかはわかってなかった。
今回、同研究グループは、相転移温度が絶対零度になる量子臨界点近傍の磁性絶縁体であるパイロクロア型イリジウム酸化物 (Nd1-xPrx)2Ir2O7に着目。高品質の単結晶を合成し、圧力、温度、磁場を細かく制御しながら電気輸送特性測定を行った。
この結果、相転移温度が絶対零度になる量子臨界点の近傍において巨大な磁気抵抗効果を観測。さらに電気抵抗率の変化に伴い、キャリアの性質を反映するホール伝導度が符号の変化を含めた異常な磁場依存性を示すことが明らかになった。また、磁気構造を考慮に入れた理論計算から、観測された現象が新しいタイプのトポロジカル電子相の発現を示している可能性が見出されている。
したがって、今回の研究は、今まで理論的に予測されていなかった電子状態が磁気構造やバンド幅を制御することにより多数実現することを、実験的、理論的に実証したものであるといえる。
同研究グループは今回の成果について、固体中における磁性とトポロジカル電子状態の関係について重要な知見を与えるものと説明しており、また、今回確立した温度、圧力、磁場をパラメータとした相図は、今後、強相関トポロジカル物質の設計指針となることが期待されるという。