東京大学は、同大学大学院情報理工学系研究科の川原圭博准教授と新山龍馬講師らの研究グループが、印刷エレクトロニクス技術を用いることで、薄くやわらかく軽量なモーターを作製することに成功したことを発表した。この研究の詳細は、シンガポールで開催されるロボットとオートメーションに関する国際会議にて、現地時間5月30日に発表される。

印刷エレクトロニクス技術を用いることで実現した、薄くやわらかく軽量なモーターの原理の図(出所:東京大学Webサイト)

ロボットの関節を曲げ伸ばしするための駆動源は、金属材料や永久磁石を使った硬くて重くかさばる電気モーターが主流となっている。硬い構造材料をやわらかい材料で置き換えた、安全な「ソフトロボット」を目指して、空気でゴム材料を膨張させて駆動力を得る空気圧式モーターが提案されているが、電気制御するためにポンプやバルブが別途必要である。

研究グループは、印刷技術を活用し、電子回路やセンサーなどを製造する「印刷エレクトロニクス技術」を用いることで、薄くやわらかく軽量なモーターを作製することに成功した。

同モーターは、小さな袋に低い温度で沸騰する有機溶剤であるアセトンや3MTM NovecTM 7000などの液体が封入されたもので、低い温度で沸騰する液体が入ったプラスチックフィルムの袋を、導電インク技術を用いて印刷したヒーターで加熱することにより、袋の内部で液体が気化・膨張し、モーターの駆動力を得る仕組みになっている。そして、自然冷却によって繰り返し動作し、ヒーターだけでなく配線やタッチセンサー、アンテナなども合わせて印刷し、モーターとの一体化が可能だということだ。

昆虫の軽量かつやわらかな動作を再現するソフトロボットの応用例を示す蝶々を模した例(出所:東京大学Webサイト)

ロボットの関節を模した駆動実験では、このたび開発されたモーターは、大きさが80mm×25mm、重さは約3gと非常に軽量でありながら、最大約0.1N・mの回転力を発生させ、最大動作角度は90度に達した。

このモーターの作製には、数万円以下の安価な装置と数十分程度の作業時間しか必要とせず、やわらかく薄いという特徴を生かして、工業用途だけでなく家庭や学校教育現場など、さまざまなシーンでの活用が期待されると説明している。

植物のやわらかさをもつソフトロボットの応用可能性を示すタッチセンサーとモーターの一体化によって実現した、ハエトリソウを模した例(出所:東京大学Webサイト)