米国のロケット会社「ロケット・ラボ」(Rocket Lab)は5月25日(米国時間)、新型の超小型ロケット「エレクトロン(Electron)」の初めての打ち上げを実施した。

地球周回軌道への投入は失敗に終わったものの、エンジンの燃焼や機体の分離などはおおむね正常におこなわれ、ロケットは宇宙空間に到達。小型衛星の打ち上げ輸送手段の革命に向け、大きな一歩を踏み出した。

エレクトロンの打ち上げ (C) Rocket Lab

エレクトロンの第2段から撮影された地球の映像 (C) Rocket Lab

エレクトロンの1号機は、日本時間の5月25日13時20分(現地時間同16時20分)、ニュージーランド北島のマヒア半島にある同社の発射場から離昇した。

発表によると、第1段エンジンの燃焼と第2段との分離、そして第2段エンジンの点火と衛星フェアリングの分離までは正常におこなわれ、ロケットは宇宙空間に達したという。しかし、第2段エンジンの燃焼中になんらかの問題が発生し、軌道には到達できなかったとしている。

なお、今回は試験打ち上げであったため、実機の人工衛星の代わりに、ダミーの重り(イナート・ペイロード)が搭載されていた。

同社は現在、飛行の状況や軌道に到達できなかった原因を調査しているという。またロケットは太平洋上空で大気圏に再突入したはずだが、機体の大半は燃え尽きたか、海に落下したとみられ、被害などは報告されていない。

エレクトロンは今回が初めての打ち上げということもあり、ロケット・ラボはロケットに「イッツ・ア・テスト(It's a Test)」と名づけ、あくまで試験打ち上げであり、打ち上げ延期や失敗などは十分起こりうると強調していた。

その言葉どおり、残念ながら軌道投入は失敗に終わったものの、実際の打ち上げの中でエンジンなどがおおむね正常に動くことが実証され、ロケットも宇宙空間に到達するなど、新型ロケットの初の試験打ち上げとしては成功ともいえる、大きな成果を残した。

ロケット・ラボのピーター・ベック(Peter Beck)CEOは、「今日は素晴らしい日です。私たちの優秀なチームを心から誇りに思います。私たちはゼロからロケットを開発している数社のうちのひとつであり、そして4年足らずでそれを成し遂げました。私たちは今日、この打ち上げを行うまで、倦まず撓まず働き続けました。私たちは小さなチームですが、すべてを自分たちの社内で開発することができました」と語り、喜びをあらわにした。

「私たちはこの試験打ち上げを通して多くを学び、今後さらに多くのことを学べるでしょう。私たちは宇宙を手軽に利用できるようにすることを約束します。今回の打ち上げはその目標に向けた大きな一歩でした。宇宙に簡単に小型衛星を打ち上げられるようになれば、天気予報の改善や宇宙からのインターネット、災害予測や船舶の航行、海難救助など、多くのサービスへの貢献が期待できます」(ベックCEO)

同社では今年、あと2回のエレクトロンの打ち上げを計画しており、次回の打ち上げでは軌道への到達と、ロケットの持つ打ち上げ能力の実証を目指すという。

また2018年に予定している本格的な運用が始まれば、年間50機以上、最高で120機のエレクトロンの打ち上げを行うという。すでに米国航空宇宙局(NASA)をはじめ、複数の超小型衛星で地球観測をおこなうスパイヤー(Spire)やプラネット(Planet)、月探査を目指すムーン・エクスプレス(Moon Express)など、いくつかの民間企業との契約も結んでいる。

打ち上げを待つエレクトロン (C) Rocket Lab

エレクトロンの打ち上げ (C) Rocket Lab

ロケット・ラボとエレクトロン

ロケット・ラボは2006年に、ニュージーランドで設立された企業で、現在は米国ロサンゼルスに本拠地を置くも、ロケットの製造拠点や打ち上げ施設はニュージーランドに置いている。

同社はまず、小型の観測ロケットの開発と打ち上げを行ったのち、超小型衛星を打ち上げることに特化した、超小型ロケットの開発にのぞんだ。そして生み出されたのがエレクトロンである。

エレクトロンは全長17m、直径1.2mで、1段目に「ラザフォード」と名づけられたエンジンを9基、2段目に宇宙空間の飛行用に改修したラザフォードを1基もつ、2段式のロケットである。

高度500kmの太陽同期軌道(地球観測衛星などがよく打ち上げられる軌道)に、約150kgの打ち上げ能力をもつ。これにより、数kgの超小型衛星であれば放出機構を含めて数十機、小型衛星であれば最大2機程度を同時打ち上げできる。

エレクトロンの最大の特長は、電動ポンプで推進剤を供給するまったく新しい形式のロケット・エンジンを採用したり、その製造に3Dプリンタを活用したり、さらにタンクを含む機体の大部分に炭素繊維複合材料を使うなど、さまざまな先進的な技術をふんだんに取り入れている点にある。

これまで、低コストを目指して開発された小型ロケットの多くは、既存の部品を利用したり、使い古された技術を寄せ集めたりと、性能よりも入手性や造りやすさを重視したものが多かったが、エレクトロンはまったく逆のアプローチで開発されている。

打ち上げコストは、以前は490万ドル(2017ね5月の為替レートで約5.5億円)と公表されていたが、現在は非公表であり、詳細は不明である。

打ち上げ場所は、今回打ち上げがおこなわれたニュージーランドの北島にあるマヒア半島のほか、いずれはアラスカや米国フロリダ州のケープ・カナベラルからの打ち上げも可能だという。

ちなみに今回の打ち上げは、ニュージーランドの地から初となる、人工衛星の打ち上げだった(過去に観測ロケットが打ち上げられたことはある)。ただ、ロケット・ラボの本社が米国にある関係から、エレクトロンは米国のロケットという扱いであり、打ち上げの認可も米国連邦航空局(FAA)から取得している。

発射台へ運ばれるエレクトロン (C) Rocket Lab

カーボン製の機体や電動モーターで動くポンプをもったエンジンなど、エレクトロンにはさまざまな新しい技術がふんだんに盛り込まれている (C) Rocket Lab

激化する超小型ロケット開発競争、背景に小型・超小型衛星への期待

エレクトロンのような、小型・超小型衛星の打ち上げに特化した超小型ロケットが開発された背景には、増加する小型・超小型衛星の打ち上げ需要への期待がある。

ここ10年ほどの間に、電子部品や機器の小型化、高性能化が進んだおかげで、数kgから100kgほどの小さいサイズながら、大型衛星に負けない性能をもつ小型衛星が造れるようになった。

しかし、それを宇宙へ打ち上げるための手段は限られており、それが小型・超小型衛星の発展を妨げる要因となっていた。

小型・超小型衛星の打ち上げ方法として、現在大きく3つの方法がある。1つは大型の衛星を大型のロケットで打ち上げる際に、余っている打ち上げ能力やスペースに超小型衛星を載せる「相乗り」という方法。もう1つは超小型衛星を数機、数十機をまとめて1機のロケットに搭載して打ち上げる方法。そしてもう1つが国際宇宙ステーションまで無人補給船で運び、日本のモジュール「きぼう」から放出するという方法である。

これらはすべて、打ち上げ時期や軌道などが自由に選べないという問題がある。もちろん、打ち上げ時期や投入軌道にこだわりがない場合や、同じ軌道に複数の衛星を打ち上げる場合などには問題にはならないが、たとえば1機の衛星を、ある特定の軌道に打ち上げたい場合や、サービス開始時期が決まっている場合などには都合が悪い。また、中でも軌道傾斜角(赤道となす角度)が45度から60度といった軌道は、大型の衛星が打ち上げられる機会があまりないため、そもそも打ち上げることすら難しい状況にある。

こうした問題が解決できれば、ベンチャー企業やこれまで宇宙とは縁のなかった企業が、衛星を使った新しい事業を生み出したり、学生が衛星を開発、運用できる機会が増えたりなど、ビジネス面、教育面で可能性は大きく広がる。

そこでロケット・ラボをはじめ、現在いくつかの企業が、こうした小型・超小型衛星を、1機から数機単位で打ち上げることに特化した、超小型の人工衛星打ち上げ用ロケットの開発に挑んでいる。

その中でも、エレクトロンと並んで有力とされるのが、小型宇宙船「スペースシップツー」を開発していることでも知られる、カリフォルニア州に本拠地を置くヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)から派生したヴァージン・オービット(Virgin orbit)が開発している、「ローンチャーワン(Launcher One)」である。

ローンチャーワンは飛行機から空中発射する形式のロケットで、打ち上げ能力は太陽同期軌道に200kg。初打ち上げは2017年中、あるいは2018年に行うという。

またアリゾナ州にあるベクター・スペース・システムズ(Vector Space Systems)では、「Vector-R」、「Vector-H」という2種類のロケットを開発している。打ち上げ能力は太陽同期軌道に50kgから100kgほどと、エレクトロン、ローンチャーワンなどよりさらに小型の衛星をターゲットにしている。

日本でも、北海道に拠点を置くインターステラテクノロジズ(IST)が、こうしたロケットの開発を行っている。同社は現在、宇宙空間に届く性能をもった観測ロケット「モモ」を開発しており、5月18日には実際に打ち上げに使われるものと同型のエンジンの、120秒間の燃焼試験に成功。打ち上げが目前にまで迫っている。

また並行して、超小型衛星を打ち上げられる能力をもったロケットの開発も行っている。ISTは「ロケット業界のスーパーカブ」を造るという目標を掲げており、誰もが当たり前のように宇宙に行ける世界の実現を目指している。

ヴァージン・オービット(ヴァージン・ギャラクティック)が開発中の「ローンチャーワン」の想像図 (C) Virgin Galactic

ISTが開発している「モモ」ロケットのポスター (JA2016にて撮影)

参考

Rocket Lab successfully makes it to space | Rocket Lab
Rocket Lab | Electron - satellite launch vehicle | Rocket Lab
Electron Test Launch Window Announced | Rocket Lab
? ・Rocket Lab Signs Launch Contract with Spaceflight | Rocket Lab
Maiden flight of Rocket Lab’s small satellite launcher reaches space - Spaceflight Now
Rocket Lab reaches space, but not orbit, on first Electron launch - SpaceNews.com