米Citrix Systemsが5月23日から25日まで、米フロリダ州オーランドで年次カンファレンス「Citrix Synergy 2017」を開催した。基調講演で、CEOのKirill Tatarinov氏は「クラウドとデータにより、顧客がデジタルで先行する"デジタルフロンティア"企業になることを支援していく」と訴えた。
クラウド、AI、セキュリテイ、接続管理にフォーカス
2016年初めにCEOに就任したTatarinov氏は、2回目となる今回のSynergyの基調講演で、何度も「新しいCitrix」という言葉を用いた。MetaFrame、アプリケーションの仮想化(XenApp)、VDIと主力事業を進化させてきたCitrixがここ数年取り組むのがクラウドだ。それを実現するものとして「Citrix Cloud」を2016年のSynergyで発表、「安全にアプリケーションとデータを配信できる統合されたクラウドサービス」が戦略となる。
今年のSynergyではクラウドに加えて、「接続管理」「インテリジェンス」「セキュリティ」の4つがキーワードとなった。
クラウドでは、この1年で何らかのパブリッククラウドを利用する企業は100%に達すると予想されており、複数のクラウドの利用も進んでいる。接続管理は、インターネットとモバイルがもたらす職場の環境の変化を意味する。デジタルネイティブは2020年7割以上を占めると予想されており、BYODを認める企業の比率は90%に達しているという。産業に広まりつつあるIoTも重要なトレンドだ。
インテリジェンスとは、データとそれを活用するAIを指す。Tatarinov氏は、AI市場は2020年に1兆2000億ドル、2019年までに40%のデジタルトランスフォーメーションを主導するといった調査会社の予測を引用しながら、「クラウド、モバイルの次に重要なトレンド」と述べた。AIはこれまでにないものを企業にもたらすとし、「AIを受け入れるか受け入れないかで差が出てくる」と予想した。
そして、AIを支えるのはデータだ。だが、AIの前段階と言えるアナリティクスについては、「受け入れが遅いことに少し失望している」とTatarinov氏、85%がデータアナリティクスの目標を完全に達成していないというForresterのデータを紹介した。このように、ITの投資と生産性の成長が調和しない企業が多いなか、先行者の利権を得て生産性を改善できる企業を「デジタルフロンティア」とし、Tatarinov氏は「Citrixは、企業がデジタルフロンティアになることを支援する」と呼びかけた。
デジタルフロンティア企業は、「データ主導」、「戦略実現のためのIT活用」「デジタル・デクステラティ(Gartnerが提唱する言葉で、デジタルトランスフォーメーションの中核となる従業員)支援」「ユニファイド・ワークスペースの導入」という4つの特徴を備えるという。
最後のセキュリティについては、「深刻なサイバー攻撃が起こっている」とTatarinov氏は真剣な顔で語った。サイバーセキュリティの予想は難しく、「攻撃されていないと思っているのなら、攻撃されていることに気がついていないだけだ」とTatarinov氏は言う。
Citrixはセキュリティの強化に大きな投資をしており、Synergyでは「Citrixは新たなジャンルのセキュリティカンパニーに転身する」と宣言した。折しもランサムウェア「WannaCry」の報道が世間を賑わしているだが、同社の仮想化技術を利用している顧客は被害に遭っていないと胸を張った。
Analytics Serviceなど、セキュリティ関連の新製品を披露
このようなビジョンを支えるのがCitrixのクラウド製品だが、Synegryでは、セキュリティ、AIがキーワードとなる新製品が発表された。
まずは、先にリリース済みの「NetScaler 12」が正式に披露された。NetScalerはネットワーク分野の製品で、アプリケーションのファイアウォール、DDoS攻撃保護などのセキュリティ機能をえる。最新版では、NetScaler MAS(管理と分析)でユーザーの行動を解析する機能が加わり、Secure Web Gateway、暗号化とハイブリッドのSSLサポートも加わった。
最新のNetScaler、ファイル共有/同期の「ShareFile」「Xenファミリー」などで実現するのが「Citrix Secure Digital Workspace」だ。これはSynergyで発表されたコンセプトで、企業が持つ既存のアプリケーションやサービスに加え、インフラのAWSやAzure、アプリケーションのSalesforce.comなどのSaaS、Dropboxなどのオンラインストレージとすべてを管理できるものとなる。これらを個別に安全に管理することは「もはや不可能」とTatarinov氏は述べる。
また、エンドユーザー側の統一環境としては「Citrix Workspace Service」を発表した。StoreFrontの進化版としてCitrix Cloudのクラウドサービスにおいて提供されるもので、クラウド、オンプレミス、仮想化とさまざまなアプリケーション、データ、コンテンツ、ワークフローにアクセスできるという。
Tatarinov氏が「Synergyで最も重要な発表」と銘打ったのが「Citrix Analytics Service」だ。セキュリティツールで、自社環境で何が起こっているのかを視覚的に把握できる。2016年に発表した「NetScaler Management And Analytics System」の次のステップ、と位置付けている。
ShereFileにより、どのドキュメントが誰によりダウンロードされたのかといった詳細な情報を得ることができるだけでなく、AIとアナリティクスを利用して異常と思われるイベントに対して警告を発してくれる。「(創業以来)28年間、40万以上の顧客との関係を通じて環境を理解してきた。これを基にアルゴリズムを開発した」とTatarinov氏。「Citrixならではの強みだ」と胸を張った。
さらに、セキュリティのサービスとして、同社のプロフェッショナルサービスが抱えるセキュリティの専門知識を提供するコンサルティング・サービス「Citrix Security Practice」も発表した。
これら新製品を紹介した後、Tatarinov氏は「あらゆるクラウド(Any Cloud)、あらゆるネットワーク(Any Network)、あらゆるデバイス(Any Device)、世界のどこからでも(Any location)、いつでも(Any time)、誰でも(Any one)というメッセージを今後も継続する」と顧客やパートナーに向かってCitrixの方向性を示した。