「ジェンダーとダイバーシティ推進を通じた科学とイノベーションの向上」をメーンテーマに「ジェンダーサミット10」が25日、科学技術振興機構(JST)と日本学術会議などが主催し、2日間の日程で東京都千代田区の一橋講堂で始まった。ジェンダーサミットは「男女の(社会・文化的)性差」であるジェンダーを科学にとって重要な要因と捉え、研究とイノベーションの質の向上を目指す国際会議。2011年にベルギーのブリュッセルで第1回が開かれ、以降年1~3回開催されて今回で10回目となる。26日夕には「ジェンダーの平等」が目標の一つになっている「(国連)持続可能な開発目標(SDGs)」に関する提言を世界に向け発信する。。

写真1 開会のセッションであいさつするJSTの濵口道成理事長(中央演壇)

同サミットは日本初開催。欧州委員会のほか、文部科学省、内閣府男女共同参画局、経済産業省、日本経済団体連合会、国立大学協会など国内の約20の府省や団体が後援したほか、110を超える企業や大学、学会などが協賛した。同サミットは主要(プレナリー)セッションとパラレル(サブ)セッションで構成され、主要セッションは「ジェンダーの歴史と未来」「アジアにおける深刻な問題への女性の貢献」「ジェンダーに基づくイノベーション」「科学の社会的責任」に2つの総括セッションを合わせて計6つ。

25日は午前8時半過ぎに開会。主催者を代表してJSTの濵口道成理事長が「世界から皆さんが来ていただいて嬉しい。科学技術への理解を進める根底にジェンダーの問題を据え、さまざまな研究の質を向上させてイノベーションの結果をより良いものにしていく(方策を)議論したい」と会議の趣旨を説明しながらあいさつした。

この後、来賓として招かれたヨルダンのスマヤ・ビン・エル・ハッサン王女が演題に立った。同王女は「新たな世紀に入ってもまだ研究やイノベーションでのジェンダーの不均衡について語らなくてはならないのは残念だ。この不均衡は我々の社会に打撃を与えて人類の進歩の可能性を奪う。今ほど研究分野で女性の存在が求められたことはない」と指摘。その上で「人類の半分を占める女性の才能や意欲、熱意を生かさない手はない」「(この会議では)厳しい環境にあっても世界の研究、イノベーションの最前線で女性が実績を上げていることを知ることができそうで嬉しい。女性が産業、経済、社会の大きな変革をもたらす可能性があることにスポットライト当てていきたい」となどと、会場の出席者に向けて力強く語った。

写真2 会場に語りかけるスマヤ・ビン・エル・ハッサン王女(左)、写真3 水落敏栄・文部科学副大臣(右)

水落敏栄・文部科学副大臣は「科学技術、イノベーション活動を活性化させていくためには女性の能力を最大限発揮してもらう環境を整備することが不可欠で、(環境整備は)社会の活力を維持するためにも極めて重要だ。研究者に占める女性の割合は日本ではまだ15パーセントだ。研究分野に女性の発想やアイデアが入っていくことで科学技術イノベーションが促進される。(政府としても)この分野での女性の活躍を支援する政策を今後も推進していく」とあいさつした。

来賓あいさつの最後に日本学術会議の大西隆会長は「私が大学で関係している工学分野では特に女性が少ない。この会議が分岐点となって日本の大学や研究機関が刺激され、ジェンダー平等の問題と取り組んでほしい」と述べた。

この後JSTの渡辺美代子副理事が進行役となって主要セッションの一番手「ジェンダーの歴史と未来」が行われ、IBMフェローの浅川智恵子氏、京都大学総長の山極寿一氏らが登壇した。

浅川氏は「私は14歳の時にプールの壁にぶつかって失明した」とインターネットがなかった時代に情報にアクセスしにくくなった辛い経験も紹介しながら「他人に依存する人生から自由になりたいと思ってそこにニーズが生まれ、『ここでイノベーションしないでどうするんだ』と思った」と語り始めた。そうした思いがきっかけになって米国に渡りIBM研究員として革新的な製品開発を行ってきた経緯と具体的事例を説明した上で「一人一人の異なる人生経験のギャップがイノベーションを生むが日本はまだそうしたダイバーシティを活用できてない」と指摘した。そして「私は女性、視覚障害を持つ研究者、日本人という3つのダイバーシティに属している。皆さんもそれぞれの視点、見方を持っている。それが強さになる。私のモットーはあきらめずに不可能を可能にすることだ。私は目が不自由という不利な状況を有利なことに変えて研究に生かしている」と基調講演を結んだ。

山極氏は専門分野である霊長類研究を分かりやすく解説しながら人類は進化の過程ではゴリラのような霊長類同様集団や共同体で育児をしていたことを紹介。「人間は元来、生物学的な親族関係がなくても子育てに関わることで(集団内の)絆を生んでいた」などと述べ、家族や地域社会での多様な役割を考える上で示唆に富む話を披露した。

写真4 講演する浅川 智恵子 氏(左)、写真5 講演する山極寿一 氏(右)

25日午後は米スタンフォード大学教授で「ジェンダーに基づくイノベーション」という概念を提唱したロンダ・シービンガー氏が座長を務めた主要セッション「ジェンダーに基づくイノベーション」などが行われた。

パラレルセッションは2日間にわたり6テーマで行われ、25日は鈴木大地・スポーツ庁長官も出席して「スポーツにおける身体とジェンダー・サイエンスの推進」など3つが行われた。このセッションは日本学術会議の井野瀬久美恵副会長(甲南大学文学部教授)が リーダーとなり、スポーツ分野での女性の活躍と社会におけるジェンダー平等との関係を国際比較した「スポーツ版ジェンダーギャップ指数」が紹介され、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた発信の在り方などについて討議が続いた。

「ジェンダーサミット10」の関連企画として「女子中高生と保護者向けシンポジウム」が5月27日に同じ会場(一橋講堂)で、また「サテライト会議」が同月29、30日に沖縄県の沖縄科学技術大学院大学で開催される。

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