京都大学(京大)は5月23日、クモ毒由来の溶血ペプチドを改良し、細胞が養分を取り込む機能を利用した細胞内への抗体輸送手段を開発したと発表した。

同成果は、京都大学化学研究所 二木史朗教授らの研究グループによるもので、5月22日付けの英国科学誌「Nature Chemistry」に掲載された。

抗体などのバイオ高分子を生きた細胞内で機能させるために、バイオ高分子を細胞内へ運ぶ戦略として、取りこみ小胞であるエンドソームを不安定化することで、エンドソームに捕捉されたバイオ高分子を細胞内に放出する手法がこれまでに試みられてきたが、細胞内でバイオ高分子を放出する効率は低いままとなっていた。

バイオ高分子を細胞内に放出するためには、エンドソームの膜に強く作用し、これを不安定化する必要がある。そこで今回、同研究グループは、強力に細胞膜を破壊する天然の溶血ペプチドに着目。クモ毒由来の溶血ペプチドM-lycotoxinをもとに、エンドソームを効果的に不安定化するペプチドL17Eを開発した。

M-lycotoxinは細胞膜の構造を強く乱し破壊する機能があるが、今回の研究ではM-lycotoxinのアミノ酸配列を一部置き換えることで、細胞膜自体は破壊せず、エンドソームの膜を効果的に不安定化させることに成功した。

この結果、抗体を効果的に細胞内へ放出することが可能となった。また、同ペプチドを用いることで、細胞外から導入した抗体による、特定のタンパク質の細胞内での局在の可視化や、細胞内のタンパク質相互作用に基づく情報伝達の調節ができることも明らかになっている。

同研究グループは、今回開発した方法について、細胞内の生理活性タンパク質の役割の解明を目的とした基礎研究だけでなく、新しい医薬品や治療法の開発支援ツールという観点においても有用であると説明しており、より多くの研究者に使用してもらうため同ペプチドの市販化を検討しているところだという。

クモ毒由来の溶血ペプチドを改変した細胞内抗体輸送ツール (出所:京大Webサイト)