アドビ システムズは5月18日、都内でプレスラウンドテーブルを開催した。今回、Adobe Systems Document Cloud担当シニアプロダクトマネージャー アンドレア ヴァッレ氏が来日し、モバイル・Web向けのオープンな電子署名の推進を目的に2016年に設立した「クラウド署名コンソーシアム(Cloud Signature Consortium)」について説明を行った。
電子署名は電子サイン分野の1つで、フランス、イタリア、スペインなどの電子署名プロバイダやトラストサービスプロバイダ、学術機関、標準化団体、セキュリティ関連団体が同コンソーシアムに参加している。
電子署名の必要性とは
電子サインは、オーセンティケーション(証明)するためのさまざまな電子的な手段であり、同社は電子サインとして「Adobe Sign」を提供している。一見、電子サインと電子署名は同じ意味を持つように考えられるが、文書の署名におけるアプローチが異なり、署名に関する法律や規制の要件が関わるという。
電子サインは、各種ID認証メソッド+監査証跡でプロセスの安全を確保して署名を証明する。一方、電子署名の場合は認証書ベースのID+暗号化により文書を紐付けて署名を証明し、検証は信頼された認証局を通じて行われる。
冒頭、ヴァッレ氏は「電子サインの中でも電子署名は特殊な分野で、暗号化技術に基づく強固なセキュリティを実現しなければならない。従来のスマートカードやUSBのトークンをはじめとした、物理的な専用のセキュリティデバイスに保管された証明書ベースのIDを使う手法は複雑な仕組みのため、一般ユーザーには扱いづらい側面がある」と指摘した。
確かに、クラウドベースの電子署名は専用デバイスを必要としないが、省令などで定める基準に適合するための規格は必要だ。その点について同氏は「モバイル時代にどのように電子署名を適合させるのか、ということが大きな課題として浮上しているため、コンソーシアムを設立した。また、われわれは電子署名の国際規格を策定する標準化団体『ETSI(欧州電気通信標準化機構)』のメンバーでもある」と述べた。
そして「コンソーシアムはオープンな組織であり、デジタル署名をクラウド環境で実現していくための標準規格を策定することを目指している。コンソーシアムで策定した規格をベースにオープンスタンダードに準拠したクラウドベースの電子署名を実現し、結果として導入・利用が容易かつ、セキュリティが強固なソリューションとして多くのユーザーが活用している」と同氏は続けた。
さらに、ヴァッレ氏は「コンソーシアムには、多くの日本企業が参画することを期待している。すでに複数のサービスプロバイダーに加え、電子署名のルールを策定する政府機関と協議しており、クラウドベースの電子署名を日本に導入することに対して高い関心を持っている。われわれとしても、新しいパートナーシップを締結するチャンスであり、電子署名を日本で浸透させていくためにもパートナープログラムが重要となり、サービスプロバイダーの協力が必要だ。今後、日本においてパートナーエコシステムを拡大していく」と力を込めた。
根強く残る日本特有の「ハンコ文化」
日本の状況についてアドビ システムズ 法務政府渉外本部 本部長の浅井孝夫氏は「経済産業省内に電子署名法研究会があり、2015年度からクラウド署名について研究を進めている。われわれは2016年度から参加しており、国としても電子署名やペーパーレスの仕組みを推進していく動きがある」と語る。
また、日本における制度整備に伴う議論の争点に関してヴァッレ氏は「技術と政策の2つのレベルで話し合いが進められている。技術面では、クラウドベースの電子署名の普及促進のコンセンサスができつつある。政策面については、ほかの国や地域において、どのような場面で電子署名の適用を義務付けているのか、ということに関心があるようだ」との認識を示した。
さらに、浅井氏は日本のハンコを引き合いに出し「三文判と実印とでは法的な効力が違い、現状での日本における電子証明書は実印と同じ扱いになり、本人が署名を施したという法律的な推定が働く。しかし、電子署名はクラウド上に実印がある状態となるため、実印と三文判の区別が必要となり、どのような要件を満たせば本人だと証明するのか、ということが議論のポイントになっている」と、現状の課題を説明した。
もちろん日本でも電子署名は、プロセスの合理化やペーパーレスの実現などへの活用が期待できるが、サービスの浸透には根強く残る特有のハンコ文化への対応が課題点となりそうだ。