東北大学は、妊娠高血圧症候群の原因のひとつとされていた「酸化ストレス」が、妊娠高血圧症候群を発症している母体や胎児の病態を改善することを発見したと発表した。

妊娠高血圧症候群(出所:東北大学プレスリリース)

研究成果の概要(出所:東北大学プレスリリース)

同研究は、東北大学東北メディカル・メガバンク機構の祢津昌広助教、同大学医学系研究科の相馬友和研究員(現ノースウェスタン大学)、鈴木教郎准教授、山本雅之教授(東北メディカル・メガバンク機構長)ら研究グループによるもので、同研究結果は、米国東部時間5月16日に米国科学雑誌「サイエンス・シ グナリング」のオンライン版で公開された。

「妊娠高血圧症候群」と呼ばれる、全妊婦の 3~5%の高頻度で発症する疾患は、妊娠中期から高血圧を発症する疾患であり、胎児の発育を妨げるだけでなく、母体の様々な臓器に障害をもたらし、命に関わる事態を引き起こすことがある。妊娠高血圧症候群は生活習慣病による高血圧とは大きく異なっており、その原因についてはほとんどわかっていないため、重篤な妊娠高血圧症候群を発症した場合、妊娠の途中で胎児と胎盤を母体から取り出すことが唯一の治療法とされている。

妊娠高血圧症候群では、胎盤機能に異常が生じることで病態を悪化させると考えられており、細胞を損傷させる活性酸素種などの分子が蓄積した状態、「酸化ストレス」が亢進していることが知られている。そのため、酸化ストレスが血管などの胎盤組織を障害し、妊娠高血圧症候群の病態を悪化させると考えられていた。しかし、酸化ストレス緩和薬(抗酸化剤)の効果について、国際的な大規模研究が行われた結果、抗酸化剤は妊娠高血圧症候群に対して効果が無く、むしろ胎児の発育遅延を悪化させる可能性があることが判明したという。

同研究グループは、生体内の酸化ストレスが「Nrf2」と呼ばれるタンパク質によって軽減されることを発見しており、今回の研究では、妊娠中に高血圧を起こすマウス(妊娠高血圧マウス)のNrf2の活性を変化させることにより、酸化ストレスのレベルを増減させ、その影響を検討した。その結果、妊娠高血圧マウスでは20%程度のマウスが妊娠中に死亡したが、酸化ストレスレベルを下げたところ約40%のマウスが死亡してしまった。一方、酸化ストレスレベルを上げたマウスでは、死亡率を5%以下に抑えることができた。なお、妊娠高血圧マウスではなく、通常の妊娠中のマウスを用いて酸化ストレスのレベルを変化させても、母体・胎児ともに影響は観察されなかった。次に、酸化ストレスが妊娠高血圧症候群の症状を改善するしくみを明らかにするために、胎盤の解析を行った。妊娠高血圧マウスの胎盤では、血管の数が少ないことが知られていたが、酸化ストレスのレベルを下げるとさらに減少し、酸化ストレスのレベルを上げると正常妊娠マウスと同程度の血管が形成されることがわかった。詳細な解析の結果、酸化ストレスが妊娠高血圧症候群の胎盤内で血管の細胞を増殖させるはたらきがあることが明らかとなった。

酸化ストレスは、細胞を障害する悪玉因子と考えられてきたが、今回の成果により、妊娠高血圧症候群の症状を改善させる善玉因子としての効果があることが示された。また、妊娠高血圧症候群によって発育不良となった胎盤血管に対し、酸化ストレスが血管の成長を促す作用を持つこともわかった。今回の発見により、いまだ発症や悪化の原因がわかっていない妊娠高血圧症候群の病態解明と治療法開発に繋がることが期待されるということだ。