東京大学は、同大学大学院工学系研究科の井手上敏也助教、理化学研究所創発物性科学研究センターの車地崇基礎科学特別研究員、東京大学大学院工学系研究科の石渡晋太郎准教授、十倉好紀教授(理化学研究所 創発物性科学研究センターセンター長兼任)らの研究グループが、磁気秩序と強誘電秩序を合わせ持つマルチフェロイクスFe2Mo3O8、(Zn0.125Fe0.875)2Mo3O8において巨大な熱ホール効果が生じることを発見したことを発表した。この研究成果は5月16日、英国科学雑誌「Nature Materials」に掲載された。
縦方向に流した熱流が曲げられて横方向に温度勾配が生じる現象である「熱ホール効果」は、通常の金属では電荷を持つ電子が磁場下で電磁気学的な力を受けて曲げられることによって生じるが、電荷を持った素励起が存在しない絶縁体中では熱流は通常直進し、ホール効果が起こることは極めて稀である。
現在までに、格子振動の素励起(フォノン)や磁性秩序相における磁気励起(マグノン)の熱ホール効果が特殊な物質で報告されていたが、熱流の曲がる程度を表す熱ホール伝導度はいずれも非常に小さかった。
この研究では、磁気秩序と強誘電秩序を合わせ持つマルチフェロイクス Fe2Mo3O8、(Zn0.125Fe0.875)2Mo3O8の熱伝導を系統的に測定した。その結果、本物質がフェリ磁性相において巨大な熱ホール効果を示すことを発見し、熱ホール伝導度がこれまで報告されているものより一桁以上大きな巨大な値を示すことを明らかになったという。
従来のように、フォノンやマグノンといった個々の素励起がホール効果を起こしているのではなく、マルチフェロイクスに特有の強い格子・スピン結合に由来した、新しい機構のホール効果が起きていることが示唆されるということだ。
この研究成果は、マルチフェロイクスにおける磁性と誘電性が結合した新物性の開拓を促進させると同時に、磁性絶縁体における効率的な熱流制御技術の構築に寄与することが期待されると説明している。