スタンフォード大学の研究チームは、生物分解可能なフレキシブル有機薄膜デバイスを作製した。増加を続ける電子廃棄物の処理問題を解決するのが狙いという。研究論文は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。
今回の研究では、半導体ポリマー、電子回路から、実装基板まで、有機薄膜トランジスタを構成するすべての要素を、生物分解可能な材料で作製した。デバイスの廃棄後は、すべての要素が無害な物質へと生物分解される。
従来の高分子化学では、優れた導電性と生物分解可能性を両立する材料を作るのは難しいとされてきた。今回は、特殊な化学結合(イミンの可逆的結合)をベースとする高分子を設計することで、この課題を解決したとする。開発された半導体ポリマーは、高い導電性を有するが、弱酸性条件で分解可能なものであるという。
半導体ポリマーに加えて、他の電子部品、実装基板などもデバイスが分解されたとき生体に対して無害な材料に置き換えた。通常の電子部品で金が使用される電極部分には、環境親和性が高く人体にも無害な鉄を使用した。
実装基板は、紙の材料でもあるセルロースを用いることで、生物分解可能な厚さ800nmの薄膜基板とした。ただし、今回のセルロース基板は、紙と違って透明でフレキシブルである。デバイスを皮膚に取り付けたり、体内に埋め込んで使用するのに適した基板であるという。
これらの材料を用いて、擬似的なCMOS回路を構成し、動作実証を行った。CMOS回路は膜厚1μm、重さは2g/m2程度と軽量で、動作電圧は4Vとなっている。
国連の環境調査レポートによると、2017年に放出される電子廃棄物は約5000万トンと見積もられており、2015年比で20%以上増加するという。研究チームは、電子廃棄物が生物分解され、無害な状態で環境中に戻るように、電子デバイスのあり方を再考していくとする。
また、生物分解可能なデバイスは、電子廃棄物の処理問題を解決するだけでなく、医療分野や環境調査など、幅広い応用が考えられる。生体内に埋めこんで使用する医療用デバイスとしては、使用後に一定時間で分解され、分解後も人体に無害であるので、取り出しのストレスをなくすことができる。環境調査用途では、生物分解可能なモニタリング用センサを飛行機で広範囲に散布し、環境データを集めるといった利用が考えられる。