九州大学(九大)は5月9日、衛星細胞とよばれる筋組織幹細胞が合成・分泌するタンパク質「セマフォリン3A(Sema3A)」によって抗疲労性筋線維の形成が誘導されることを見出したと発表した。

同成果は、九州大学大学院農学研究院の辰巳隆一准教授、水野谷航助教、中村真子准教授らの研究グループによるもので、5月7日付の米国科学誌「STEM CELLS」オンライン版に掲載された。

骨格筋の疲労耐性やエネルギー代謝などの特性は、筋線維とよばれる細長く大きな筋細胞のタイプによって決まっている。筋線維には、抗疲労性筋線維と易疲労性筋線維の2つのタイプがあるが、筋の成長や再生の過程でどちらのタイプになるかを決定する機構はこれまで不明となっていた。

筋線維は、衛星細胞が活性化・増殖・分化・融合して形成される。同研究グループはこれまでに、衛星細胞が分化・融合期に至るとSema3Aを大量に合成・分泌することを見出していた。今回の研究では、衛星細胞のSema3A遺伝子だけを不活化すると、抗疲労性筋線維がほぼ完全に消失することから、生体内においてSema3Aが強力な初期決定因子として働いていると着想。培養衛星細胞のsiRNA実験および衛星細胞特異的Sema3Aコンディショナルノックアウトマウスを用いた筋損傷・再生実験を行った。

この結果、同研究グループは、Sema3Aによって抗疲労性筋線維の形成が誘導されることを見出すとともに、Sema3Aの細胞膜受容体に始まる細胞内シグナル伝達軸を明らかにした。また、Sema3Aは別の細胞膜受容体にも結合し、易疲労性筋線維の形成を阻害するシグナルを発生することにより、抗疲労性筋線維の形成を助長していることも明らかにした。

同研究グループは今後、骨格筋の成長期においても、Sema3A依存的なシグナル伝達軸によって抗疲労性筋線維の形成が誘導されていることを明らかにしていきたいとしている。また、Sema3Aの細胞膜受容体に結合しシグナルを発生させる物質を食品成分に見出しており、これをサプリメントとして摂取すると抗疲労性筋線維が増える可能性があると説明している。

今回の研究成果の概要 (出所:九大Webサイト)