国立遺伝学研究所(遺伝研)は5月10日、細胞がDNAをコピーする際の失敗に対処する新たなしくみを発見したと発表した。
同成果は、国立遺伝学研究所の夏目豊彰助教と鐘巻将人教授らの研究グループによるもので、5月9日付の米国科学誌「Genes & Development」に掲載された。
細胞が分裂して増殖する際には、ヒトで約2mという長いゲノムDNAを正確に複製・分配する必要がある。DNA複製時には、2本鎖DNAが開かれて1本鎖の鋳型DNAが露出するが、この過程は、身近にあるファスナーを開く動作に例えることができ、MCM2-7複製ヘリカーゼというタンパク質がファスナーのスライダーに相当する役割を持っている。
しかし、ファスナーに物が挟まってスライダーが動かなくなるように、DNA上のさまざまな障害物によって、DNAを開くことに失敗してしまう場合がある。従来の研究技術では、この際の細胞の対処法について詳細に検証することができなかった。
そこで今回の研究では、標的タンパク質を短時間で分解可能な「オーキシンデグロン法」を利用。同手法を用いて、スライダーであるMCM2-7複製ヘリカーゼをその進行中に壊すことで、ヒト細胞の応答を観察した。
この結果、MCM2-7複製ヘリカーゼがDNAから外れると、MCM8-9ヘリカーゼと呼ばれる MCM2-7と類似したバックアップスライダーが、MCM2-7に代わってDNA合成を続けることが明らかになった。
抗がん剤にはDNAに損傷を与え、MCM2-7複製ヘリカーゼの脱落を促進して作用するものがあることから、同研究グループは、MCM8-9ヘリカーゼの阻害薬によってこのバックアップ機能を断つことにより、従来の抗がん剤作用を増強できる可能性があると説明している。