哺乳類の心筋細胞は増殖できないと考えられていたが、炎症の回復期では増殖する細胞があることを、大阪大学の研究グループがマウスの実験で明らかにした。心臓に秘められた再生能力があることを発見した研究成果で、新たな心不全治療につながる可能性があるという。研究論文は3日付の英科学誌電子版に掲載された。

図 炎症を起こした心筋細胞が炎症回復期に増殖する概念図(大阪大学研究グループ作成・提供)

大阪大学大学院薬学研究科の藤尾慈(ふじお やすし)教授らの研究グループによると、患者が増えている心不全は心筋細胞が死んで減少することが原因で起きるが、これまでは哺乳類の心筋細胞は生まれた直後に増殖能力を失うと考えられていた。このため、重症心不全の新しい治療方法として、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などを心筋細胞に分化させて移植する再生医療の研究が進んでいる。

藤尾教授らは、ウイルス性心筋炎を発症した患者の心臓機能が自発的に回復するケースが多くあることに着目。大人の哺乳類の心臓に何らかの再生・修復能力があるのではないかと考えて心筋炎を発症したモデルマウスで実験した。

炎症を起こした心臓が回復する過程の心筋細胞の様子などを解析した結果、炎症により心筋細胞は一度傷ついて減少するものの、炎症からの回復期では心筋組織内で心筋細胞が増殖することが分かった。また、炎症を起こしたマウスではSTAT3というタンパク質が活性化して、心筋細胞の増殖に関与していることも確かめたという。

研究グループは「(人レベルでも)心臓に存在する心筋細胞の秘められた再生能力を目覚めさせる技術を確立することができるかもしれない」としている。

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